小説 川崎サイト

 

栄耀栄華

川崎ゆきお


 咲き誇る花もいつかは散る。咲き誇っていない花は、散ったことさえ分からないわけではないが、目立たないので、分かりにくい。栄えたものはいずれ亡びる。それは人には寿命があるため、否が応でも去らなければいけない。そして、後継者がしっかりしていると、さらにその栄華は続くかもしれないが、これも三代目、四代目となると、もう分からなくなる。当然時流があり、そこから離れてしまうと、存在価値も薄くなり、影も薄くなる。
 というような人の世の儚さを噛みしめた坂上は、栄耀栄華を極めるのは損ではないかと思うようになった。ただ、それを噛みしめるだけの体験はなく、物の本や、人の行いを見て感じただけのことだが、これを教訓とした。
「ほう。それは平家物語でも読みましたか」
「いえいえ、咲く花の華やかさとは裏腹に、それが枯れて散る様を見ていると、そう感じたのです。それならいっそのこと先回りをして、枯れ尾花を目指す方が得策かと」
 枯れ尾花とはススキの枯れたような状態だ。おれは川原の枯れススキ……と退廃的な唄が流行った時代もあった。
「しかし坂上さん。あなたそれほど出世もしていないし、財を蓄えているわけでもないでしょ。そんなことを考える以前の問題で躓いているように、私には思われるのですがね。つまり捕らぬ狸の皮算用の問題です。先ずは狸の皮を捕らないと」
「しかし、狸の皮を捕って良い身分になったとします。その後が心配なのです。皮を捕り続けないといけないし、皮の人気が今一つ下がったとき、落ちていくでしょ」
「捕りもしないのに落ちることを心配しているのですか」
「そうです」
「それを取り越し苦労と言います。分かりますね」
「しかし、やる気が失せてしまいます。先の先まで考えると。結果的に枯れススキになるのでしたら」
「だったら、狸の皮をあまり捕らないことですよ」
「え」
「欲を出して皮を捕るからいけないのでしょ。ほどほどならそれほどいい身分にはならないはず」
「そうですねえ」
「簡単なことですよ」
「はい」
「しかし坂上さん。あなたまだ一枚も皮を捕ってませんよ。だから、栄耀栄華の入り口にさえ立っておられない」
「そうですねえ」
「だから、坂上さん。あなた一切そんな心配をする必要はないと思います」
「それを聞いて安心しました」
「その心配はないから、狸の皮捕りに精を出しなさい」
「はい、そうします」
 
   了

   



 


2015年2月5日

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