小説 川崎サイト

 

迷路抜け

川崎ゆきお


 日常の中に地形的な迷路はないが、頭の中での迷路はある。迷路は迷い込んで、何処にいるのかが分からなくなり、道に迷うことになる。これが町中では抜けられないような道を指すのだろうか。そこに住んでいる人はそれを知っているので、通り抜けようとはしない。
 頭の中の迷路は思い迷うようなこと。話の道筋が見えないとか、よく分からないまま彷徨っているような。
「迷ったときはどうしますかな」
「何処で迷ったのかを思い出し、そこへ戻ります」
「戻れない場合は」
「それなんですよ問題は。戻れれば、分岐点でやり直せますが、その分岐点が何処だったのかが分からなかったり、またはそこへは二度と立ちたくないとか、そういうことで」
「そうなると、どうなりますか」
「迷路というのはいろいろな場所と繋がっている可能性があります。見えないのでよく分からないのですが、本道に繋がる道を発見できるかもしれません」
「本道とは目的地へ通じる道のことですね」
「そうです。しかし目的地が曖昧だと、その限りではありません。僕の場合、目的地、行く場所は、まあ、適当でよくて、その道筋を楽しもうとする部類なのです」
「ほう、部類」
「はい、部族、種族のようなものです。そういう性癖なんでしょうねえ」
「じゃ、迷う方が楽しいと」
「そうなんです。あとは偶然本道と言いますか、分かりやすい通りに出ることがあります。しかしそれじゃ面白くないので、また細くて分かりにくく、どこへ繋がっているのか分からないような道に潜り込みます」
「悪趣味ですか」
「これは、よく分かっている道に出たときの感動を楽しめます。そこでほっとする。迷いからさめたような。これがすこぶる感動的でして」
「無理に迷路に入り込むのはどうしてですかな」
「見聞を広げるというか、ここはどうなっているのかを見たいのですよ」
「それは好奇心のなせる技ですかな」
「ああ、ただの刺激を求めて、だけですよ。そんな上等なものじゃない」
「冒険家ですなあ」
「細く、狭く、曲がりくねった迷路の脇にお宝が隠されているかもしれません。ただの空き箱だったりしますが、また、妙な人物とも出合います。まるでドブ板の裏側にくっついている虫のような人にね」
「ほう」
「だから、分かり切った本通りなど、刺激がないので、滅多に通りません」
「考え方もそうですかな」
「はい、よく分かっている考えより、何かよく分からない考え方の方に興味が行きますねえ。分かっているものはもう考えなくてもいいでしょ。分からないから考える。そして迷路に入り込む」
「抜けられる保証はありますかな」
「ないから刺激的なんですよ」
「迷路脱出法は」
「忘れてしまうことです。すると迷路も消えます」
「それは頭の中での迷路の話ですね」
「そうです。忘れて真っ白にすれば、迷路も消えます」
「なかなか忘れられないこともあるでしょ」
「だから、別の迷路に入り込んで、書き換えるのです」
「ほう」
「すみませんねえ、分かりにくい話で」
「いえいえ、あなたのその話こそが迷路です」
 
   了
   

 




2015年2月28日

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