小説 川崎サイト

 

物が物を呼ぶ

川崎ゆきお


「物は物を求めますなあ。妖刀村正は血を求めますなあ」
「それは物騒な」
「欲は欲を求める。欲が欲を呼ぶ」
「よく聞きますねえ」
「ある物を得ても、その物が、また物を欲しがる」
「物欲ですか」
「あらゆる欲ですよ。まあ、人は欲の塊。それを隠すような仕掛けもありますが、これは我慢をしているだけで、後が怖い。溜りに溜まった欲が爆発するので、たまにはガス抜きのように、欲を出すのがよろしいかと」
「物が欲を呼ぶのですか? それは欲張りな人で、人が欲を呼ぶんじゃないのですか」
「物に託した自分が物の中におわします」
「神様みたいに、おわすわけですね」
「そうです。物と自分とが一体になることがあるでしょ。まあ、人と物とは違いますが、思い入れのようなものが加わるはず。自分の人格や生き方を物の中に見いだすわけです。だから、ただの物じゃない」
「それで、物が物を呼ぶのですか」
「まあ、お金の都合もあるので、物が物を呼んでいても、買えなこともあります。お金があって、買うことができても際限がない。いつまでも物は物を呼び続けます」
「どこで止めるのですか」
「まあ、諦めるのでしょうなあ」
「物を諦めるとは、欲を諦めると」
「しかし、その欲は別の方面へ向かうでしょう。欲はエネルギーですからね。それを出せば、まあ、何とか誤魔化せますよ」
「どちらへ向かうのですか」
「目先を変えて、別の物に欲を出すとかです」
「それなら、お金がなくてもできますねえ」
「まあ、いくらお金があっても満足は得られません。だからそれを止める方法が古代からあるのです。初期、それは宗教でしょう。またはタブーです。タブーを作ることで、歯止めを効かせる」
「神々の深き欲望って聞きますが」
「神は人が作ったもの、だから、人以上に神様は欲深い」
「でも、欲を押さえるために作ったのでしょ。タブーとか宗教は」
「神様はいいのです。作り物ですから。欲の塊でね。ここで人は神を利用したわけです。大きな方便でしょう」
「神は際限なく欲を出してもいいのですね」
「欲を鎮める者が一番の欲張りってことですよ」
「それより、新しいタブレットが欲しいのですが」
「銘板ですか。石版に預言や啓示とかが刻まれていたり」
「はあ」
「石などに刻まれた」
「違います。パソコンです」
「あなた、先月買ったんじゃないのですか」
「タブレットがタブレットを欲しました」
「え」
「7インチなんですが、8インチが欲しい」
「おお」
「7インチが8インチを求めたようです」
「それはあなたが求めたのでしょ」
「正に物が物を求めるのです」
「知らぬがな」
 
   了

 


2015年3月9日

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