小説 川崎サイト



猟奇の友

川崎ゆきお



「大将、カラスがこんなものを」
 手下の忍者が首領の猟奇王に紙切れを渡す。
 猟奇王、紙切れの文面を見ているが、別のことを考えている。
「カラスと申したな」
「黒いあのカラスでんがな」
「伝書烏か」
「そうでんなあ」
「有り得るのか」
「カラスは利口ですから、それぐらいのこと、やりますやろ」
 猟奇王は納得しない。
「それより、何の伝言でっか?」
「カラスはどこに運んだ」
「はあ?」
「貴様は見たのか。伝書烏を」
「わてが入り口で手裏剣の練習してましたら、的の棒の上にとまって、紙切れクチバシから落として飛び去りました」
「貴様が練習中でなければ、そのカラス、どうするつもりか」
「知りまへんがな。アジト近くに落としたらええんとちゃいまっか。それより文面ですがな。何と書いてまっか」
「会いたいと」
「誰が?」
「正義の使者、怪傑紅ガラス」
「その人、引退したんとちゃいますのん」
 怪人猟奇王と怪傑紅ガラスは長年の宿敵。しかし、しばしまみえることはなかった。
「今頃何やろなあ。思い出したように」
「さて、如何致すか」
「久しぶりに対決しまっか。こんなチャンス、もう将来ないかもしれまへんで」
「何の対決じゃ」
「怪人と正義との対決でんがな」
「それは概念じゃ」
「はあ?」
「対決するだけの具体性がない」
「そうでんなあ」
「残るは存在証明だけ」
「それが具体でんがな」
「いや具の微塵もない」
「やくざの出入りみたいなもんでんがな。敵対する相手は叩くだけでんがな」
「その手前にドラマが欲しい」
「何を贅沢な。充分理由がありますがな」
「相撲の立ち合いでも待ったがある。わしは乗り気ではない」
「せっかく紅ガラスが相手してくれてまんねんから乗りましょうや大将」
「気にいらん」
 その後、伝書烏が連日飛来するが、猟奇王は動かなかった。
 
   了
 
 



          2007年1月29日
 

 

 

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