小説 川崎サイト

 

安らぎの里

川崎ゆきお


「どういうときが安らげますか」
「いい感じでいるときですか? 場所とか?」
「はい、それはどんな条件でも構いません。あなたが一番安らげるときを教えてください」
「ゲームをしているときです」
「遊んでいるときですね」
「誰でもでしょ」
「でも、遊んでいても安らげない人もいますよ」
「それはあります。ゲームを楽しくプレーするには条件があります」
「ほう」
「ゲームさえしていれば安らげるのかといえばそうではありませんし、ゲーム中も、安らげないこともあります」
「単純な話じゃないのですか」
「先ずは体調が悪いと、だめです。体調を整える、これだけでも実際には日々細々としてことに気を遣わないと、なかなか整いません。いくらゲームが安らげるからと言って、でも結構体調が悪いときでも、ゲームは何となくできます。まあ、気晴らしでいいのでしょ。横になって休憩しているより、いいです。そうして体調や気分が悪い時間、下手なことをするより、過ぎゆく時間で解決していくものです」
「はい、続けてください」
「ゲームは特に成果はないのです。現実的に。だからいいのですよ」
「無為な行為が安らげると」
「これはゲームのやり方にもよるのです。私の場合、ペースですねえ。自分がリードしているかどうかです。これはライバルなどとは関係ありません。この場合のリードは、相手より強いとか、弱いとかではなく、思っている通りに進んでいるかです。想定通りに進んでいるかです。順調に進んでいるときは安らげます。全て上手く行っているわけですから。いい時間を過ごせます。自分が主導権を握り、その読み通り進んでいるからです。自分が仕切っている時間です。これがいいのです」
「そのリードが、安らぎをもたらせるわけですね」
「安らぎと言うより、安心してできます。安心感、安定感のようなものでしょうか。そういう流れに乗ったときですがね。そこに乗せるために、色々と創意工夫をします」
「安らぎの里があるのですが」
「来ましたねえ」
「ああ、はい」
「しかし、話の流れに乗せないで、かなりいきなりですよ。もう少し段階があるんじゃないのですか」
「すみません。乗り損ないました。だからもう我慢できずに用件を切り出してしまいました」
「何でした、その」
「安らぎの里です」
「年寄りが老後送る施設のことですか」
「違います。まあ、短期の別荘レンタルのようなものでして、自然豊かで、山川も近く海も近いです。湖もあります。自然は豊かです」
「要するに人があまりいない田舎なんですね。平地がないので、開けていないような」
「住むには何ですが、一週間二週間、その程度なら、恵まれた環境です」
「安らげますか」
「黒潮に面していますので、気候も穏やか、温暖な土地です。まあ、温泉も、少し遠いですがあります。従いまして逗留気分を味わえます」
「いるんでしょ」
「はいっ?」
「いるんでしょ」
「幽霊はいません」
「そうじゃなく、お金」
「ああ、はい」
「それを聞いて、安らげなくなりました」
「分割可です」
「ほう」
「月々千円から」
「なるほど、いいところを突いてきましたねえ」
「そうでしょ、それで、一週間でも二週間でも逗留できます。別荘を持っていても管理が大変でしょ。月に千円なら、安いものです。まあ、レンタルですから、自分の別荘じゃないので、手間はかからない。また、家の修理代もいらない。固定資産税もかからない」
「あなた、今いい感じでしょ。安らいでいませんか」
「はあっ」
「あなたのリードで島田もゆれるですよ。リードしているから楽しいでしょ」
「ああ、まあ」
「それが言いたいのです。ゲームもそうなんです。自分の思うようなペースに填まったとき、安らげるのです」
「ああ、なるほど」
「しかし、私は、それには乗りませんから、結局は断ります。残念でした」
「ああ、気分が良かったのになあ」
 
   了



2015年4月9日

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