小説 川崎サイト

 

余計事

川崎ゆきお


 余計なことをしているときの方が、メインの仕事が捗る。というより、安定している。メインの仕事が捗らないので余計なことをするわけではないが、メインは退屈なものだ。それだけに安定している。また安定させないとメインとは言えない。そのため、踏み外したり、方針を変えたりとかは迂闊にはできない。そんなとき、メインではない余計なことをすると、しばしメインから離れられる。メインばかりをやっていると、自家中毒を起こす。倦怠感とか、閉塞感だ。
 メインの仕事なので、より快適な、またはより将来を見込んだ方法を模索するとかでもいいのだが、ある程度それが終わると、あまりやることがない。現状維持だけで十分なためだ。それでは刺激が無いのだが、メインを弄るのは危ない。メインに対してサブという考えがあるが、そうではなく、ジャンルが違うのだ。またそういうものがなかったりするし、さらに職として、仕事として成立しないこともある。そういうメイン以外のものを余計なことと呼んでいるが、余計事であっても、それなりに難しく、メイン以上に苦労することがある。そこでドタバタしているときの方が、メインの調子がいい。というより、メインは安定しているため、ドタバタしないためだろう。それこそ余計なことを考える必要がない。
 それで、余計事の合間にメインの仕事をするとき、悪い感じがない。本来なら退屈なものなのだが、逆にほっとしたりする。ただ、それほど快適なわけではなく、いつもの仕事をいつも通りやるだけで、大きな喜びもないのだが。
「妙な仕事方法ですねえ」
「メインを弄らないで、他のことを弄るわけです。それで揉めますがね。問題が出たりとか、色々と。しかしメインじゃないのだから、まあ失敗して壊れてもいいんです。それに惜しいとも思わなかったりしますから。何せ余計事なんだから。だから、余計事の方を気にすれば気にするほど、メインについてはあまり気にならなくなる。これです」
「しかし、余計なことをしている時間、メインの仕事をしている方が効率がいいでしょ」
「実際、一日の中で、どれだけ本当に仕事をしているかです。ほんの数時間、数十分かもしれませんよ。大事なポイント箇所は」
「ああ、はい」
「だから、時間が余る」
「私、忙しいですが」
「メインの仕事に余計な手間をかけるからですよ。またはメインを増やしたりしていませんか。メイン箇所で余計なことをするからですよ」
「ほう」
「だから、メイン外で余計なことをするのがいいわけです。これはメインに影響しません」
「しかし、時間が」
「確かに時間を取られ、メインの時間が短くなる。これが刺激になる。短い時間にさっさとやってしまう、あるいは無駄を省いて、必要箇所だけに徹する。まあ、早く終わらせたいので、手を抜くわけですがね。それは余計なことを早くやりたいからです」
「メインでの手抜きは」
「最低限のことをすればいいのですよ。抜くわけじゃない。メイン箇所での余計な手間を整理するわけです。やらなくてもいいような箇所もあるでしょ」
「いえいえ、それは職種にもよりますよ」
「まあ、そうなんですがね」
「要するに仕事ばかりしていると煮詰まるので、遊びましょうと言うことですか」
「平たく言えばそうなんですが、あまりメインばかりに集中しているより、目を逸らしているときの方が上手く行くんです。メインなので、もう慣れたものでしょ」
「目を逸らすのですか」
「そうです。逸らしていても、自動的にできるでしょ」
「はいはい、手順は黙っていても、いつの間にかやってます。意識しなくても」
「そうでしょ」
「ところで」
「何ですか」
「余計なことって、何ですか」
「それは任意だ」
「はあ」
「好きなことですよ」
「ああ、趣味のような」
「そうそう。そっちに気を取られているほど、メインは安定しています」
「その理屈が分からない」
「まあ、メインが楽しければ、余計なことはしなくてもいいんですよ。問題は長く続けていると、飽きてくる。ここからの方が実は大変なんだ」
「そうですねえ。細かいことが気になったりします」
「だから、そのエネルギーを余計事に向けさせ、そこで発散させるわけです。理屈的にはね」
「はいはい」
「分かりましたか」
「いいえ」
 人にはタイプがあり、同じようにできない人も多い。

   了

 






2015年4月17日

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