小説 川崎サイト

 

元気な日

川崎ゆきお


「元気なとき、ありますか」
「たまにね」
「たまですか、いつも元気そうに見えますが」
「本当に、たまですよ。いい状態なんて、年に何度もない」
「そうなんですか」
「年に数回は言いすぎだが、やはり周期があるねえ。病気じゃなくても」
「どんなときが元気ですか」
「それなんだがね、よく分からない」
「あ、はい」
「元気だから、元気になるんだ。これは調子がいいとき、調子がいいんだ。当たり前だね」
「気分的な問題は?」
「ああ、体調が悪く元気もない状態のとき、いいことがあると困るねえ。特に元気が出そうなことと遭遇すると、災難だよ」
「いいことがあると元気が出るのじゃないのですか」
「それとは別だ」
「じゃ、何か持病とか」
「それとも別。だから、よく分からんと言っている」
「はあ」
「元気なとき、元気な事柄と遭遇するといいんだが、そうとばかりは限らない。そして、元気なときは、余り大した用事はない。パワーがいるようなね。だから、空元気のままだ。これはもったいない。空ぶかしだからね」
「それよりも、元気は何処から出るのでしょうか」
「発生原かね」
「はい」
「分からんが、何となく出てくる。いいことがなくても、悪いことがあっても、それらとは関係なく、元気だけが独立して、行動しているようなものかね」
「それは不思議ですねえ」
「新陳代謝の問題かもしれない」
「バイオリズムのような」
「そうだね、それに近いねえ。だから、気分を高揚させるような元気を注入してもだめなんだよ。気は元気になるが、体が動かんし、無理をして動くと疲れる」
「はい」
「訳もなく、朝から調子がいいときがある。これはそういう周期になっているんだろうねえ。だから年に数回じゃなく、数週間に一度ほど凄く元気な峠がくる。これは何もしていなくても、勝手に来て、勝手に去って行く」
「バイオリズムの周期は、一年、一日、つまり、朝と夜など、細かな周期もありますよ」
「そうだね、一日の中で一番元気なときは起きてから何時間後か、なんてのもあるねえ」
「僕は午前中、調子がいいです」
「そうかね。私は起きてすぐだ。そのあと、どんどん落ちていく。目覚めたときが一番元気だ」
「血圧と関係しているのかもしれませんねえ」
「まあ、最初にも言ったように、そう言う体調とは関係なく、元気が出入りしているんだ。謎の周期だよ」
「それはオカルトじゃないのですか」
「昔の人は、思い当たることがあるんだろうねえ。何もないのに元気がある。何もないのに、元気がない。朝夕関係なくね」
「占いでありますよ。それ」
「しかし、そんなこと知ったからと言って、何ともならんからねえ」
「あ、はい」
「元気がなくてもやらなければならんことはやらないかんしね」
「そうですねえ」
「だから、妙に元気のある日は、贈り物だと思うしかない」
「え」
「神様がくれた贈り物だよ」
「ほう」
「安堵感のある元気な日が確かにある。何もないのに幸せな気分のときがね」
「あ、はい」
「これはもらい物なので、無料だ」
「あああ、はい」
 
   了



2015年5月9日

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