小説 川崎サイト

 

ロー作戦

川崎ゆきお


「元気がなくても出来る。やる気がなくても出来る。いやいやながらでも出来る。頑張らなくても出来る。そういうものを見付けられなかったのが私の人生最大の失敗です」
「ほう」
「まあ、徐々にそうやって修正してきましたがね、気付くのが遅すぎた」
「ほう」
「元気がなければ出来ない。やる気がないと出来ない。好きでないと出来ない、怠けていては出来いない。そういう反対側を考えなかったのですよ」
「ほう」
「若い頃、飛ばしすぎたのでしょうなあ。ほらよくいるでしょ、マラソンで、最初からトップになり、中盤まで行かないうちに落伍する。終盤まで残ればいいでしょうが、半ば以前で落ちていく。飛ばしすぎなんでしょうなあ。まあ、マラソンと人生とは違いますので一概には言えませんがね」
「しかし、先生の説だと、あまり大した仕事は出来ないと思いますよ」
「じゃ、大した仕事って何ですかな。それだって、その仕事が本当によかったのかどうか、世の中のために役立ったのか、逆だったりしますよ」
「しかし、そんなやる気のない状態ではだめなんじゃないですか」
「それが悪い行為だったとした場合、つまり、やっていることがあまり好ましくない事柄の場合、やる気がないので、大きな成果は上がらない。だから、罪が軽い。まあ、いい事柄で、やる気がなくやった場合捗らないので、世の中の役には立たないこともありますがね。どちらに出ても弱いということです」
「しかし、仕事でも何でも頑張ってやった方が気持ちがいいでしょ。やりがいもあります」
「だから先ほど言ったでしょ。頑張れないとき、困るわけです。だから、ラインを下げ、パワーを下げた状態で進んだ方がいいのです」
「それは何か狡そうな」
「まあ、パワー全開で頑張った人が三年ほどでバテて、そこで終わっても、頑張っていない人は無理をしていないので、十年、二十年と続けている。結果的には頑張っていなかった人が成果を出すかもしれませんよ」
「つまり、ロー作戦ですか」
「そうです。低く低く、下から下からです」
「しかし、好きなことを、好きでやるのはいいでしょ」
「好きな事柄ほど嫌いになったりしますよ。もう二度と触れたくないようにね。だから、好きなことをするのも長続きしません。いつ嫌いになるか分からないし、好きなことばかりやっていると、それほど好きではなくなってきますからね。それよりも嫌いなことでも出来る方がいいのです」
「嫌いなことをやるには相当頑張らないとだめなような気がしますが、この矛盾は」
「それも一つです。つまり矛盾していていいのです。矛盾を気にするとだめです。矛盾する事柄の方が世の中多い。当然自分自身の中でもね。嫌いなことなら、楽しめない。だから最初から頑張る気はない。期待感がないので、頑張る意欲もない。だから、頑張って嫌いなことをしなくても、頑張らなくても嫌いなことが出来ますよ」
「はい、頑張って、そのロー作戦、やってみます」
「だから、頑張ってやると失敗しますから、頑張らないでやるのです」
「はい、頑張ってみます」
 
   了



2015年5月11日

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