小説 川崎サイト

 

公園巡礼

川崎ゆきお


 怪しいものを探してウロウロしている高橋が、怪しい老人を見付けた。住宅地の中だ。町内の人と服装が違う。少しだけよそ行きだ。町内の人が出掛けるところ、または散歩をしているのかもしれないが、その雰囲気が違う。これは直感だ。自分と同じ匂いがするのだ。ただ、そんな匂いが鼻の穴に入り込むわけではない。あくまでも視覚的なことから演算しての推測だ。
 話し掛けてみると当たっていた。
「まあ、この辺りは珍しいものなどありませんがね、一応行きやすいところを教えましょうか」
「お願いします」
 これはただの散歩コースではないかと思ったのだが、高橋は一応聞いてみた。
「この先にある農業公園はカキツバタ、アヤメの名所ですが、適当に植えたものです。予算がないのでしょ。農作物を見せる公園ではありません。そんなものその辺の畑へ行けばいくらでも見られるでしょ。だから、実物の潅漑モデルや、水路のレプリカがあります。水車もありますよ。ここは入りやすい。つまり、住宅地の公園は入れない。分かります?」
「はい、分かります。他所の町内の人が、迂闊に立ち入れません。その近所の人でないと」
「そうです。特に小さな子を遊ばせている親の視線が妖怪です。これは怖い」
「妖怪」
 高橋は、そういう言い方をするこの老人、やはり睨んだ通り同類だ。
「農業公園は夜はカップル天国です。その時間私は行きませんがね。これは夜の部です。朝の部は体操してます。昼の部は特にありません。朝と夜の部だけ出し物が違います。そして次は交通公園」
「はあ」
「これはバスでしか行けない場所でしてね。市バスの終点にあります。だから、町の外れ、その向こうは川です。この公園の敷地内には道路が走っています。複数ね。交差点には信号があります。分かりますね、信号の渡り方を園児などに教えるためのものです。車は一台も走ってませんが本物の信号機や横断歩道もある。少し型が古いですが。ただし自転車で走り回っている子供がいます。競輪のようにね。これは暴走です。ここも行きやすい。また、突き当たりの土手際に植物園がありましてねえ。ここは市民に開放されています。花畑です。野菜はありません。従って家庭菜園ではありません。小さく分割されていて、何を植えるか花咲かせるかを競い合っています。その密度は異様です。バケモノのような花がたまに咲いてますよ。こんな花の種、何処で見付けて来たのかと思うほどのね。普通の花じゃ勝負にならないからでしょうなあ。毒花じゃないかと思うような花もあります。ここを私は毒花園と名付けています。薬草園じゃなくね」
「夜になるとアベックは」
「ここはいないです。何故なら、高層団地に取り囲まれていますからねえ。分かるでしょ」
「覗かれるわけですね」
「はい、方々の窓から砲塔が下を向いています。十字砲火を受けるでしょう」
 要するに、この老人は公園マニアなのだ。
「次は溜池公園。ここは渡り鳥が飛んで来るはずなんですが、アヒルしかいません。あとは亀です。当然釣はできません。そういう人は、この近くに釣り堀があるので、お金を払って釣るようです。ただ、夜釣りに来る人ががいるようですが、魚も寝ているんじゃないかと思いますよ。何が釣れたのかは聞いたことはありませんがね。パンツでも釣ったのでしょうかね。ここも便が悪い。バスで近くまで行けますが、やはり自転車が必要でしょ。しかし、私は歩き専門でして、疲れればタクシーで帰るのです。だから、自転車は邪魔」
「はい」
「次が古墳公園。ここは昔はホームレスの寝床だったんですが、公園化して、すっきりしましたが、誰が埋葬されているのかは分からない。ただ、周囲に石仏や、石柱、石饅頭などが点在しています。古墳の回りにはありがちでしてね。古墳公園よりも、その周辺を一周する方が、神秘的ですよ。ここはお婆さんのあとを付いて行けば、全部回れます。十箇所ほどあるでしょうか。祠は五つです。石柱には周辺墳跡などと書かれていたようですが、もう読めません。主墳と関係あるのは言うまでもありません。今では主墳より、こちらの方がよろしいかと。ただ、ここは公園ではありませんから、ウロウロしにくいですから、必ずお婆さんのすぐあとを歩くことです」
「余計に怪しいじゃないですか」
「いやいや、そのお婆さんの付き添いのような感じに見られるので、大丈夫ですよ」
「流石にベテランですねえ」
「要するに公共施設などを巡るのがよろしいかと、寺社じゃなく、公園です。児童公園はだめですよ。外部の人間が入り込んでもおかしくないような公園に限られています。そういう公園には猫がいます。これを見るのも楽しみです。猫捨て山と呼ばれている公園もあります。掘ると怖いですよ」
「は、はい」
「次は古墳よりも古い縄文公園です」
「色々ありますねえ」
「どれも市内か、少し出たところです。私はそういう場所を巡回しています。毎日じゃないですよ。十箇所ほどありましてね。元気で、天気のいい日に限って、出掛けるのですよ」
「一箇所だけじゃなく、複数かけ持ちで」
「そうです。毎日でも行ける場所なのですが、それじゃ目立つでしょ。またあの年寄りが来てると」
「そうですねえ」
「だから、一週間か二週間以上間を置くことが望ましいのです」
「はいはい」
「今日はこれから農業公園へ行くところです。珍しく今日は元気なので、家から歩いて来ました」
「ところで」
「何ですかな」
「何か、不思議なこと、怪しいことはありましたか」
「さあ、やはり私が一番怪しいんじゃないでしょうかねえ」
 先に言われた。と高橋は、この老人の推測力に感心した。
 
   了

 









2015年6月1日

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