小説 川崎サイト

 

気になる目覚め

川崎ゆきお


「今朝はねえ四時頃起きてしまった。正確には三時半過ぎだったか。こんな時間に起きることは殆どない。絶無じゃないけど、夜中に途中で起きるとすれば一時半あたりだね。床に就くのは十一時前後。眠りの周期で、一時半に起きることは多々ある。しかし三時半はない。当然朝までぐっすり眠ることがある。今朝はそれだと思った。それで普通に布団から出ようとしたのだが、時計を見ると三時半。早すぎる。しかし、しっかりと寝て、朝を迎えた気分なんだ。寝足りている。これは何だろう」
「はい」
「はいじゃない、どう思う」
「特に」
「いやいや、不思議だとは思わんかね」
「別に」
「君にはそんなことはないかね」
「ありますよ。でも、どってことないですよ。ああ、まだ寝られると喜んだりしますよ」
「そうか、この件に関して、私なりの解答がある」
「分かっているんですね」
「湿気だ」
「はっ」
「湿気が高い。不快指数百パー近い」
「梅雨ですからねえ」
「それが原因ではないかと思った」
「はいはい」
「ただ、因果関係が繋がらん。去年はそんなことはなかったし、また、梅雨入りしてから湿度の高い夜は多い。そのときは何ともない。ところが今朝に限って起きた。だから、私なりの考えは間違っているのやもしれん。蒸し暑いので、起きてしまったという解答がね。だから、君に聞いているんじゃないか。何か別の解答がないかと」
「例外でしょ」
「例外」
「百に一つ、千に一つは、違う振る舞いを起こすのでは」
「ほう」
「何かの偶然が重なって、違う振る舞いになるんじゃないですか」
「振る舞いねえ」
「湿気も関係しているでしょうが、あなたの体調も関係しています。また、寝る前に食べたものが胃の中で、少し違う消化方法になったとか、そのあたり、考えればきりがないですよ。また、夜中の三時半頃、近くの道路を暴走族が凄い音を立てて通ったとか。当然あなたはそれを聞いていない。寝ているので、しかし、耳には入っていた」
「ほう。いい説明を始めましたねえ」
「内蔵が夢を見させるというのもあります」
「ほう」
「外部刺激ではなく、内部刺激で。また胎内時計は内蔵にあったりします。肝臓とかにね」
「ほうほう、いいねえ」
「あなたが三時半に起きてしまった。それの分かりやすい原因をさしあげればよろしいのでしょ」
「そうです」
「それで、湿気を理由に挙げた」
「そうです」
「じゃ、湿気でしょ。それで寝苦しいので、起きてきた」
「やはりそうでしたか」
「だから、それにしておいた方がよろしいですよ」
「別の理由が、何か」
「それはきりがありません」
「何が因果でそうなったのかは分からないと?」
「寝相が悪くて、息が詰まりそうになって起きたとかもありますよ」
「それはない。しっかり寝た気分で起きてきたことが説明できない」
「しっかり?」
「そうだ。しっかり寝て、熟睡できたと、起きたとき、思った。これは如何に」
「偶然眠りの浅い周期のときに目が覚めたのでしょ。睡眠時間とは関係なく」
「ああ、そうかもしれませんなあ」
「いずれにしても、因果関係は分からない。しかし、理由、原因がないと落ち着かない。それだけのことでしょ」
「そうかもしれませんが、気になりましてなあ」
「何かそれで困ったことに」
「ないです」
「そのあと眠れなかったとかは」
「すぐに寝付きました」
「じゃ、問題はないのですね」
「あるとすれば、そんな時間にどうして起きたかです。それが気になって、それが問題です」
「気になる」
「はい、気になります」
「それは地下鉄の車両を何処から入れたのかが気になる程度の話ですよ」
「そうですなあ」
 
   了


 


2015年6月16日

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