小説 川崎サイト

 

真夏の昼寝

川崎ゆきお


「暑いと昼寝ができませんねえ」
「昼寝しているのですか」
「はい」
「結構な身分で、で、仕事は」
「昼寝です」
「え」
「冗談ですよ。しかし昼寝も仕事のようなものでしてね。これで体が随分と楽になります。夜更かしはしませんが、遅い目まで起きてられる。昼寝の溜が効いているのでしょうねえ。決して昼寝をしたからといって夜に眠れないということはありませんよ。ただ、昼寝に限ります。夕方前に寝るとそのまま朝までは眠りませんが、夜、寝付きが悪くなります。だから、昼食後寝るのがいいのです」
「羨ましい限りです。私なども横になりたいと思いますよ。しかし、会社で横にはなれない。まあ、外に出て公園で昼寝できますがね、しかし昼休みが二時間ほどあればいいけど、一時間もない。食べたらすぐに仕事に戻ることが多いのです。そうでないと定時に帰れないですからね。帰ってもいいのですが、翌日が辛い」
「それは大変ですね」
「いやいや、働いている人、みんなそんな感じでしょうかねえ」
「ところが最近暑くて、昼寝がしにくいのです」
「じゃ、起きていたら」
「眠くて起きてられません」
「悪い癖が付いたようなものですねえ」
「暑い最中でも昼前まで外に出ていましてね。これは寄り合いで、毎日参加しています。その道中が暑い。炎天下での自転車移動は結構消耗します。帰ってくると昼前なのですが、食べる前に、あまりにも苦しいので、横になる。これがいけない。昼食後の昼寝が昼食前の昼寝になる。昼に寝るのでどちらも昼寝ですが、食べたあとでないと、だめなんです。食べると体は元気になりますが、頭はぼんやり、このタイミングで横になりたい。これは腹一杯の状態で寝転ぶという至福の時ですよ。暑さにやられて腹ぺこ状態で横になるのはいけない。しかし、寝てしまう」
「じゃ、きっちり昼寝はしているじゃありませんか」
「それは昼寝じゃなく、疲れているだけなんです。本当にしんどくて横になるのは、昼寝としてはいけないのです」
「はいはい」
「それで、我慢して横にならないで、昼食を食べることにしているのですが、ここから先がいつもと違う」
「ほう」
「眠れない」
「暑いからですか」
「そうです」
「エアコンは」
「付けていません。体を冷やしすぎますから」
「それじゃ暑いでしょ」
「窓を開け、扇風機を一応回しています。羽根だけですよ。少しは汗ばみますが、毎年これで過ごせます。しかし、本当に暑い日は無理です。ここ二三日のような猛暑だと、部屋にまで熱気が来ていて、扇風機の羽根を回しているモーターの熱で、部屋を暖めているほどですよ」
「そんな」
「窓を開けていても、実は外の空気の方が高いのです。だから、暖かい空気を入れるようなものだ」
「だから、エアコンを付ければいいじゃないですか」
「冷えて腹を壊します。それに風邪を引いたような症状が鼻や喉に出ます。こちらのリスクの方が大きい」
「はいはい」
「部屋の中で一番涼しい場所を探し、そこで横になります。こういうときは下手に寝返りなどをうたない方がいい。じっとしているとそのうち体温が下がってきますので、暑さも凌げるのです。ただし、じっとしていることです」
「まるで、お仕事ですねえ」
「そうです。創意工夫が必要なんです」
「はいはい」
「ところがあまりにも暑いところから戻ってくると、体に熱が籠もったようになり、体に熱気が入ったままになります。これは危険な状態ですよ。汗をかいているのに、体温が下がらないようなね。体温計で実際に測ってみると、平熱です。だから、体温計では示されない熱が体に入っているとみるべきでしょう。何か興奮して熱くなっているような状態に近いです」
「そんな状態では眠れないでしょ」
「しかし、身体はしんどい。気分もしんどい。横になりたいことは確かなので、そのまま落ちていけばいい」
「眠りにですね」
「そうです。シャットダウンです」
「熱中症で、そのままシャトルバスになりそうですよ」
「ああ、霊柩車の前に救急車でしょうなあ。しかし、最近屋根の付いた霊柩車見かけませんねえ。霊柩車そのものを見かけなくなった。あれは消えたんでしょうかねえ」
「いえ、知りません。ところで今日は昼食前の昼寝ですか、昼食後の昼寝でしたか」
「今日は失敗しましてねえ。昼食前の昼寝になりましたよ。実はどちらでもよかったりします。起きたとき、暑気も抜けていますから、お昼ご飯も美味しく頂けました」
「昼食後の昼寝でないと駄目なんじゃないのですか」
「そこはもう臨機応変にやることにしました」
「もう好きなようにして下さい」
 
   了



2015年7月20日

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