小説 川崎サイト



順番

川崎ゆきお



 公園にベンチがある。誰かが持ち込んだものだ。普通の椅子も並んでいる。
 老婆たちが病院の待ち合いのように腰掛けている。昔は公園には滑り台と鉄棒があった程度で、子供達は公園で野球が出来た。
 老婆たちの子供は親になり、孫や曾孫のいる年代になっている。
 公園の奥に集会所がある。今はセンターと呼ばれている。いろいろな教室が開かれたり、自治会の集まり場所になっているが、老婆達が気にしているのは葬儀場としての集会所だ。
 この町内で亡くなった人がよく利用している。
「次は誰やろなあ」
 順番待ちをしているのだが、このベンチに座っている間は当分お迎えは来ない人達かもしれない。
 次の人は今頃病院にいるだろう。
「今川はんも長いこと見かけまへんなあ」
「高田はんもや」
 老婆たちは暗に順番を知っていた。
「鴻池はんは、どないしはったんやろ。ここんとこ見てまへんで」
「足があかんみたいやで、痛い痛い言うてましたさかいな。歩くん辛うなって、来れまへんのやろ」
「残り少のうなってきましたなあ」
「そうでんなあ、あっちのベンチ、いらんぐらいやわ」
「いやいや、三好はんが加わるみたいやで、よかったら来てやと、わたいが呼びましたんや」
「三好はんはまだ若いやんか」
「最近いっそう老け込んだみたいで、もう炊事するのも辛いから、炊事場を嫁に任せた言うてましたわ。ほんで、暇やから……」
「まだ、ここに座るの早いと思うけどなあ」
「北村はんは病院から戻ってるみたいでっせ。また顔出すかもしれまへんで」
「ああ、あの人、市民病院から生還しはったんか。珍しい話やなあ。奇跡かいな」
「帰って来れたん北村はんが初めてとちゃいまっか」
「予定狂いますがな……なあ」
「それやったら、顔出してもええのになあ」
「いや、わては北村はんが本命や思てまんねん。次の集会所でやるのは」
「それはハズレや、うちは黒田はんが先やと思いまっせ」
「それ、大穴でっせ」
「救急車で運ばれるの、わたいは見たんやけど、あれはあかんわ。長いことない。すぐや」
「カンでもの言うたらあかんがな」
「いや、わての目には狂いはない」
 それから二カ月後、集会所で葬儀があった。
 ベンチで座っていたあの老婆の中の一人だった。
 
   了
 
 
 



          2007年2月12日
 

 

 

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