小説 川崎サイト

 

因縁


 人は因縁によってできているらしい。縁だ。だから、日常とは縁日のようなもの。
「親の因果が子に報いですか」
「それは因縁の結果だろうねえ、その結果もまた因縁のスターとなる」
「繁華街で怖いお兄さんからインネンを付けられた、もですか」
「そうだね。それはどうして繁華街など歩いていたかでしょ。盛り場に用があったのでしょ。そこを通らなければ怖いお兄さんも出てこない」
「用はないけど、そこを通った方が賑やかでいいから」
「他の通りもあったのでしょ」
「ありますが、並行して走っている大きな道は車が多いし、殺風景なんです」
「すると、賑やかなものを求めている君の心が、そこを通らせた。それが因だ。そして怖い兄さんと縁ができた」
「はあ」
「では何故賑やかなところを通るのかという心根の中にあるものが、さらに奥にある」
「どちからと言うと、その繁華街の先にある友達の事務所へ行くのがいやなんです」
「では、それら全て因縁だ。どうして、その事務所へ行くのが気乗りがしないのかも原因としてある」
「繁華街を通っていても、見ているだけですよ。寄り道する気はありません。時間にうるさい友達なので、そこは約束通りに行きますよ」
「じゃ、そのお友達のところへまっすぐに行きたいという気があるときは」
「え、えっ、曲がりくどい説明ですよ。何ですかそれは」
「つまり、そのお友達との関係がよい場合、繁華街は通らなかったということになりませんか」
「さあ、どっちか分かりませんが、急いでいるときは繁華街は通りません。寄り道はしませんが、歩くスピードがみんな遅いし、真っ直ぐ進めないときもあるし」
「じゃ、いつも繁華街を通るわけじゃないのでしょ」
「そうです」
「その繁華街を通るのは、その友達の事務所へ行くときだけですか」
「いいえ、その先に他の事務所や、寄るところがあります」
「じゃ、確率は」
「一寸思い出せませんが、あの友達のところへ行くとき、最近は多くなりましたよ。繁華街経由が」
「だから、そのお友達との関係で、怖いお兄さんが出て来たわけです」
「何もしていないのに、インネンを付けてきました」
「そこにいること自体が原因で、お兄さんと縁ができたのですよ」
「その因縁とか、因果とかは宗教ですか」
「いや、ただの原理のようなものですよ」
「それはどう役立ちます」
「まあ、万物の仕組みがそうなっているという事実を言っているだけのことです」
「それだけですか」
「はい」
「いいことをすればいいことが起こるとかは」
「そこまで行くと信仰です。いいことをしても悪いことが起こるのが因果因縁の世界ですよ。これは現実の世界で、一つや二つのものじゃなく、森羅万象と繋がっていますのでね」
「じゃ、どうすれば」
「そんなものだと思うことです。それと、これはライブなので、刻一刻変化していきます」
「人だけじゃなく、物に対してもですか」
「そうです。あの品じゃなく、この品を選んだというところに、複雑な関係の糸があるわけです」
「縁があるとかないとかは」
「それもライブです。今は縁が無いと言うことでしょ」
「人様の縁で生かされているというのは」
「まあ、表向きはそう言って下手に出るものですがね、これは普段はそう思わない。苦しいとき助けてもらえば、そう感じる程度です。また偶然を必然に持ち込む方便です」
「人との縁は大事ですね」
「大事だと思っていても、縁は切れるし、また増える。あまり弄らない方がよろしいかと」
「はい」
「それと、世の中に無縁と言われている人など一人もいません」
「親戚縁者がいなくても、いいんですね」
「その縁じゃなく、縁のない人など一人もいない。縁があるから、そこにいるわけです」
「無縁仏は」
「ありますねえ、もう絶えた家とかは。だから、縁は切れたり繋がったりするもので、縁が本体ではありません」
「もう、分からなくなりましたが、解決策はないのですね」
「だから、事実を言っているだけで、それだけのことですよ」
「よく分からない話だし、いいことを聞いたとも思いません」
「はい、それはあなたとは縁が無かったということでしょう」
 
   了








2015年8月6日

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