小説 川崎サイト

 

気運


 気運というのがある。それは本人の気の問題、心の問題ではなく、具体的に現れる。そうでないと、気運とは言いにくい。
 悪い気運に満ちている。これはたまにある。そういう気配というか、空気の中にいるわけではなく、悪いことが重なるのだ。一つだけなら、気にかける必要はないが。
「気運ですか」
「そうだ」
「それは運ですか」
「運がよかったの、あの運に近いねえ」
「それは何処に出るのですか」
「さあ、それはよく分からんが、少し考えれば、そうだったのかと気付く。これは結構神秘的だよ」
「それは偶然でしょ」
「そうなんだが、絵に描いたようなシナリオだ。見事すぎるほどのね。これは神秘事なので、誰にでも当てはまることじゃないけど」
「例えば?」
「具体性に弱い」
「じゃ、やはり気の問題なのですね」
「少しは具体性がある」
「例えば」
「まあ、そう急がないで」
「はい」
「気運というのは天気のようなもので、空模様だよ」
「晴れたり曇ったりですね」
「雨が続き、晴れない日が続く、山あり谷ありの喩えもあるが、何でもいい。長いトンネルでもいい」
「やはり具体例がないのでは」
「気運というか、一変や、一転するきっかけがある。そういうのが一つ二つと続く」
「全部抽象ですよ。具体的じゃありません」
「だから一つか二つ、いいことが続くことがあるんだ」
「いいことですか。具体的には」
「だから、それはただの情報だったりする」
「何の」
「久しぶりに電話がかかってきたりとかね」
「それが具体的な解決に」
「そうじゃない。その友人は大切な友人で、本来私がやろうとしていることのメイン箇所にいる人だ。いわば本道だね。久しく連絡していなかったのは、本道から逸れていたか、または本道を忘れていたためだ」
「少しは具体的です」
「しかし、それらの具体例は、私にしか分からんので、あまり説得力がない。その友人との関係や、その友人と何をしてきたかまで説明しないと理解はほど遠い。だから、私は敢えて具体的に言わないようにしているだけなんだ」
「はい、先を」
「その前に、転んで怪我をしてね。これがなかなか痛みが取れない。ところが、それがましになりだした。回復の兆しがあった。昨日よりも痛くないんだ。それと、友からの電話。それまで、何か悪魔の世界にいたような気になったよ」
「悪魔の世界ですか。それは具体的というか、あり得ないというか」
「要するに、小さな、一つか二つ。三つか四つほど、今までとは違うタイプのできごとが続いたんだ。それらは全て、いい気運だ」
「それは、もの凄く主観的で、気分的なものじゃないのですか」
「それを言ってるんだよ。さっきから、気分だよ。気分が変わったのだよ」
「じゃ、気運が変わったのではなく、気分が変わったのだと」
「そうだ」
「そんなのよくあることでしょ」
「そうか」
「そうですよ」
「それでは私は何の話をしていたことになるんだ」
「よくある話をしていただけですよ」
「何でもいいが、それで光が射したような気になった」
「いいことじゃないですか」
「方角や、本来そうあるべき道に戻れたような気がした」
「いいことですよ」
「だから、気がした」
「え」
「気がしただけ」
「はあ?」
「まあ、それ以上の具体的な何かがあったわけじゃないから、事態はそれほど変わらないがね。ただ、何となく安心した」
「じゃ、安心して、行動できると」
「いや、安心しただけで、もう十分」
「それは気の持ち方を少し立て直しただけのことじゃ」
「そうなんだよね」
「やはり行動しないと」
「そうなんだけどねえ。まあ、目標があるだけでもいいよ。別にしなくても。ないよりは安定する」
 いい気運に恵まれても、動かない人もいるようだ。
 
   了






2015年8月8日

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