小説 川崎サイト

 

夏風邪と扇風機


 倉田は暑いので、扇風機を付けっぱなしで寝ていると、朝方寒くなった。すぐに掛け布団を使うと、蒲団の暖かさが快い。しばらくすると、冷えた身体が戻ったのか暑くなってきた。既に朝になっており、外は明るい。日差しも差し込んでいる。
 倉田は再び扇風機を付けた。特に言うべき様なことではなく、普通によくある話だ。
 寝起き、倉田は散歩に出た。鼻がむずむずする。風邪。夏風邪を引いたのかもしれない。お日様を見ると、くしゃみが出た。喉は痛くないが、階段を上がるとき、息が弾んでいる。そして咳が出た。軽い夏風邪だろう。頭は痛くないが、何となく怠い。
 連日の猛暑で、暑さにやられたのかもしれない。寝るときはもちろん熱帯夜で、寝苦しい。窓を全部開け、風を遮るカーテンも開けて寝ている。例年、これで夏は過ごせるのだが、扇風機が必要な夜がたまにある。一週間もないが、猛暑日が既に四日ほど続いており、天気予報を見ても、それがいつ終わるのかは分からないらしい。
 扇風機を付けて寝ると風邪を引く。これを払拭したい。この因果関係を認めると、寝苦しいことになる。夏中扇風機を付けて寝ているわけではなく、猛暑の日の夜だけだ。そのため、例年数日程度。
 扇風機と風邪の関係を認めると、眠れなくなる。じっとしていると、そのうち眠れるのだが、暑くて静かにできない。そのうち寝てしまうのだが、時間がかかる。横になり、楽な姿勢でいるのに暑さと戦うようなものだ。この戦いをしないためにも扇風機が必要だ。いつものようにすぐに眠れる。暑いから眠れない。単純な話。
 風邪っぽい状態だったが昼過ぎになると、日中の暑さは半端ではなく、倉田はもう風邪のことなど忘れていた。それほど症状が軽かったのだろう。真冬でも起きると喉の調子が悪いことがある。そして、昼頃には、喉のいがらさも消えていたりする。だから、夏風邪も、その程度のものなのだ。
 それで、その夜は安心して扇風機を使った。少しは心配なので、いつもより扇風機の位置を遠くにした。五十センチほどだ。この考慮が効いたのか、朝方、いつも寒くなるのだが、風が遠いためか、掛け布団を使わずにすんだ。
 そして、いつものように散歩に出る。例の階段でも息は弾まないし、咳も出ない。
 気にかけていることより、まったく気にしていないことが、こんなとき突然襲うのだが、今回は何もなかった。
 
   了





2015年8月10日

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