小説 川崎サイト



逢い引き

川崎ゆきお



「どの場所にいるときが落ち着く?」
「そんなこと考えたことないです」
「そこで逢いましょうよ」
「何処かなあ」
「あなたが一番落ち着ける場所、リラックス出来る場所よ」
「布団の中かな」
「それでもいいけど、何処の」
「もちろん自分の」
「でも、いきなり行くのは……」
「そうですね。逢うだけですから」
「他にないの?」
「落ち着ける場所ですか」
「そう」
「飲み屋かな」
「そこならリラックス出来る?」
「まあ、リラックスする場所ですから」
「じゃあ、お店を決めて」
「何処でもいいですよ。飲み屋なら何処にでもありますからね」
「そこなら、あなたは落ち着ける?」
「ひどく拘りますねえ」
「落ち着かない人、多いのよ。何かそわそわして」
「僕はしてますか」
「電話だからリラックス出来るのよ」
「リラックスしないとだめですか?」
「そのほうが。あなたにもいいでしょ。いつも話してるあなたの感じのままがいいのよ」
「電話とリアルとでは多少違いますよ」
「その違いが嫌なの。態度も違ってるし」
「それで、普通だと思いますよ。まさか目隠しで逢うわけにはいかないし」
「だから、あなたがリラックス出来る場所で逢いたいの」
「だけど、どこかで待ち合わせするわけでしょ。駅とかで、いきなり飲み屋の中で逢うわけじゃないでしょ」
「それもそうね」
「つまり乗り気じゃないって事ですね。無理にとは言いませんよ。よかったらの話ですよ」
「言い出したのはあなたでしょ」
「それは話の流れで……それに意外と近いし」
「そうね、ちょっと逢うだけなら」
「顔が見たいだけですよ。だから五分でいいですよ。飲み屋に行かなくてもいいし」
「五分間のために出掛けるの」
「じゃあ、君の家の近くでもいいですよ」
「それで、挨拶だけするの?」
「しなくてもいいですよ」
「それって、何なの?」
「そうですねえ、余計に緊張しますね」
 
   了
 
 
 
 

          2007年2月13日
 

 

 

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