小説 川崎サイト

 

奥の細道


「奥が深いというのは、よく分からないということでもあります」
「奥が深いというのがよく分からないという意味ですか」
「そうではなく、奥がありそうだが、その奥がよく分からない」
「奥に何があるかが分からないわけですね」
「実際にあるものなら、分かります」
「奥に細い道があるとか」
「そうです。奥に道がある。これは分かる。それに道幅も分かっているでしょ。奥の細道は分かっている世界です。まあ、その沿道がどうなっているのかはしっかりとは分かりませんが、謎ではありません。それにその道、いずれは果てるでしょ」
「実際にある道ですからねえ」
「ところが想像の世界は別です。色々と想像できそうな世界です。そのため、よく分からない」
「具体的な話じゃないのですね」
「夢の世界がそうです」
「それは最初からないでしょ」
「しかし、多くの夢は現実と繋がっていたりします。実在の人物が出て来たりするでしょ。それに場所も」
「そうですねえ」
「しかし、現実とは全く違うことが起こっていたりします」
「それが奥が深いと」
「奥を感じさせます。意味が分かりにくいので」
「はい」
「しかし、よく分からない。だから、奥行きがあるように見えてしまう」
「夢なので、フィクションのようなものでしょ」
「幻想のようなものですが、現実にあるものよりも、そういった存在しないものの方が含みが多いのです」
「洞窟などはどうです。非常に深い洞窟」
「何処まで続いているのか分からないような長い洞窟なら、奥が深いでしょう。その先がよく分からないからです。洞窟の深さと、分からないということが重なります」
「でも、洞窟の奥まで行けば、もう大丈夫でしょ」
「洞窟の奥の突き当たりは、確かに奥ですが、分かってしまった奥です。そのため、奥深さはもうありません」
「店屋の奥も気になります」
「施設内で、一般の人が入れない場所ですね」
「そうです。ドアがあり、そこは入れません。関係者は出入りできますが、中がどうなっているのか、見たいと思います」
「それもよく分からないからでしょうねえ」
「はい」
「隠しているわけじゃないのですが、見えないので、隠れている。しかし、具体的なものなので、奥が深いということではないでしょう」
「やはり、意味の問題ですか」
「意味があるのかどうかさえ分からない」
「では、奥行きを感じるというのは、よく分からないという意味ですか」
「何かありそうなね」
「じゃ、隠すことで意味ができたりしますねえ」
「隠すようなことでもないのに、隠し立てするとね」
「それは、使えそうです」
「ほう」
「まだ、奥があるぞと、威嚇できます」
「実は何もなかってもね」
「何もないのに、隠す。これです。これは安上がりでいい」
「まあ、それはすぐに見抜かれるでしょう。非常に上手に、隠していることを隠しているように振る舞わなければ」
「それじゃ、相手が気付かない」
「気付くように隠すと、単なるハッタリになる」
「はい」
「しかし、そんなことをしなくても、何も隠していないし、奥も裏もないのに、そう思われてしまう人がいますよ」
「それは何でしょう」
「奥ゆかしい人でしょうねえ」
「ゆかしい?」
「奥行きのある人です」
「どうすれば、そういう人に見られます?」
「全部話さないことでしょ。二つか三つ手前で留め置くだけで、少しは奥が出ます」
「やってみますが、我慢できそうにありません」
 

   了




 


2015年9月26日

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