小説 川崎サイト

 

昇天街


 一寸した観光地だが、忘れられたように取り残されている。修験の道場でもあるのか山肌に石仏が彫り込まれている。見るべきものとしてはこの程度。最寄り駅は今風なロータリーになり、駅前開発でできた駅ビルやショッピングセンターがある。既に宅地化されているのだ。
 三村は石仏でも見ようと思い、ロータリーから少し離れたところにある登り口から奥へと向かった。緩い坂道沿いに土産物屋がある。薬屋が多い。薬局ではなく、薬草を丸めたような丸薬を売っている。これはただの健康食品のようなものかもしれない。しかし、かなり前からここの薬は有名だったらしい。その成分はニラとかニンニクや草の根らしい。それらを干したものが店に飾られている。成分を示すためだろう。この丸薬は団子のようなもので、賞味期限があるらしい。
 さらに進むと坂道が階段となる。山の中腹に差し掛かっているのだろう。大して高い山ではない。
 休日でよく晴れているためか、修験道場に向かう人がそれなりにいる。一寸したハイキングだ。子供連れも多いが、三村と同じような街歩きスタイルの男達も見かける。まあ、普通の靴でも問題はないのだろう。
 階段の取っかかりの真上にアーチがかかり、「歓迎」と大きなネオン文字が見える。まだ昼間なので、明かりはないが。階段が続く商店街のようなものだ。
 食堂や薬屋、土産物屋、医院が軒を連ねている。縁日のような日にはもっと人が多いのかもしれない。そうでないと、こんな場所で行楽客だけでは何ともならないだろう。
 そして、これは過剰ではないかと思える建物が多い。旅館だ。
 こんなところで泊まるような人がいるのかと思う。また料亭と呼べるほど上品ではないが、料理屋もある。これは普通の食堂とは店構えが全く違う。品書きやサンプルが見えないためだ。
 それらの需要というか、客筋は修験者だろうと三村は考えている。そういった構があり、泊まりがけで山伏のようなことをするのだ。それは、何かの組合や、団体の研修かもしれない。
 旅館も尽き、階段もなくなり、いよいよ山道に入ったのだが、いきなり急勾配になり、坂井はすぐに息が切れた。山道は手が加えられておらず、荒々しいままだ。こういう道を走り回る修行でもあるのだろう。
 やっと登り詰めたところに地肌を見せた斜面がある。まるで絶壁だ。その中ほどに仏像が浮き彫りされている。左右には小さい目の仏像もある。
 下からそれを眺めているハイカーや、ただの行楽客が何人かいる程度で、修験者の姿は見当たらない。今日はそういう日ではないようだ。きっと団体で来るのだろう。
 山道を滑るように降り、階段のある所まで来たとき、その沿道を上から眺めた三村は、ある疑念に狩られた。
 旅館が多い。料亭も多すぎる。
 石仏の観音像は都合三体だが、この階段の道沿いにはもっといるようだ。
 
   了





 


2015年9月27日

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