小説 川崎サイト

 

難儀な話


 一難去ってまた一難と、難は続くものだ。一難ではなく二難三難と難が多い場合、難が同時にあるため、難だらけとなる。難とは難儀なことで、解決するのに、一寸面倒なことをしないといけない。これが一寸ですめばいいが大層なことをしないと、乗りきれないこともある。
 難儀なことをやっているときよりも、先に待ち受けている難を想像しているときの方が不安だろう。
 運と災難は何処で起こるか分からない。分かっている難ではなく、まったく予知できない難に突然見舞われることがある。運というのは良い運もあれば、悪い運もある。だから悪いことばかりではなく、良いこともあり、これは天からの授かり物だろう。無料だ。棚からボタモチ。
 この場合、棚がなければいけないが、そのためにわざわざ棚を付ける必要はない。それにボタモチが嫌いな場合、嬉しいことではない。誰も食べないのなら、捨てるしかない。そういう意味ではなく、甘い話が落ちてくるのだろう。
「最近どうですか」
「一難去ってまた一難だよ。災難は連鎖するらしい」
「常駐ものの難もありますよ」
「ほう、何ですかそれは」
「常に抱えている難です」
「常時ですか」
「常にです。だからその難のため、楽しいときでも喜べない。うっかりと喜んだりすることもありますが、常駐難のことを思い出すと笑顔も引きます。笑っている場合じゃないと」
「それは難儀ですなあ」
「年を取ると心配事が減るどころか増えます。放置していた心配事が沢山溜まっていますからね。時効になって、消えていくのもありますが」
「いいですねえ、時効は」
「しかし、後悔の念に苛まれることもありますよ。まあ、それもそのうち忘れてしまいますが、長く尾を引くのもあります。墓場までね」
「まあ、難儀なことでも、何とか解決方法が見付かり出すと気分が良くなります」
「解決できない問題は?」
「それなんです。難の中でも一番厄介なのはそれです。解決しないタイプです。それが常駐しているのに、別口の難がやってくる」
「まあ、それで普通でしょ」
「普通」
「心配事もなく気楽に暮らしている人なんていないでしょ」
「おお、そう言われると気が楽になる」
「気楽そうな人でも、言わないだけですよ」
「そうですなあ、言わないというより、言えなかったりします」
「まあ、そういうのを抱えながら暮らしていく状態は、普通でしょ」
「普通」
「人生は苦海を行くようなもの」
「ほう」
「苦しくて普通なんです」
「一難去っても、また一難ですが、去ったとき、少し気分がよろしい。一瞬ですがね」
「いい話、ありがとうございました」
「解決しましたか」
「しません」
 
   了




2015年10月30日

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