小説 川崎サイト

 

五個山の謎


 五個山と呼ばれ地図にも記されているが実際には四つしか山はない。山の単位は分かりにくい。山脈でも区切りがあり、突き出たところで山の名が付いたりする。尾根伝いに行ける山なので、一つの山と言ってもいいが、連山とか呼ばれている。五個山のある場所は山脈ではなく山地だ。連なった長い山ではなく、ぽつんぽつんと隆起している。五個山の一つ一つは分かりやすいのだが、高くて大きな山ではない。少しだけ長細い山があり、それを二つに分けられないこともないが、やはりこれで一山だろう。これは数え方の問題かもしれないが、強引に分けないと五つにはならない。増やすのは簡単で、奥の山まで入れれば六つでも七つにもなるが、少し離れすぎている。つまり、五個山のある里から見ての五個山なのだ。
 長老の話によると、この山里へ移住して来た人達が付けた名前で、その出身地に五個山があったらしい。そこと似ているので、周囲に四つしか山がないのに、五個山と名付けたようだ。
 実は昔は五つあったのだが、歯が抜けたように消えたという伝説もある。その証拠に、そこに山の頂があったような形跡がある。今は賽の河原と呼ばれている。これは出身地にはない地名で、かなり経ってから、ここに棲み着いた人々が付けたのだろう。
 この賽の河原は山と山の間にあるのだが、草木がない。火山地帯なので、何か悪いガスでもそこだけ発生するのか、樹木が育たない。その谷底のようなところに鍾乳洞があり、ここは黄泉の洞穴と言われているが、こういうのは全国至る所にある。
 この山里は五個山と呼ばれているが、何処から移住して来た人達なのかは分からないようだ。元の村を言うのが禁句になったようで、そのうち忘れてしまったらしい。しかし、その村から家族でごっそり来たらしく、十数家族からなっている。この人々がどこから来たのかは分からないのだが、調べるような価値もないのだろう。手がかりは五つの山がある場所だ。ただ、その規模は分からない。広大な盆地かもしれないし、狭い谷間かもしれない。また、小さな島かもしれないし、あるいは国内ではない可能性もある。
 そういう村には独自の神様が祭られているものだが、それも見当たらない。あるにはあるが、結構新しい。それは賽の河原に立っている明王さんで、粘土で作られている。最初見たときはハニワの大きなもののように見えた。姿は不動明王に近いが、表情やポーズは大人しい。直立不動で立っている。これが二メートルほどの高さがある。所謂大魔神だ。
 これが村人達の出身地と関係があるのかどうかは分からない。新しいためだ。
 黄泉の洞窟は浅く、その奥には地蔵さんがある。これも取って付けたように置かれている。当然古くはない。
 村人達がモデルとした五個山が何処にあったのかは興味深いが、分かったとしても、あまり大した意味はないのかもしれない。
 地名や山の名が重なるような場所は結構あるようだ。その一つだろう。
 
   了

 


2015年11月9日

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