小説 川崎サイト

 

朝食


 三村が朝、味噌汁に炊きたてのご飯を食べるようになったのはいつ頃だろうか。そんなことを考えたのは朝の喫茶店で、モーニングセットを食べている人達を見たためだろう。その喫茶店はセルフサービスの店で、レジで注文し、レジで渡される。しかし、混んでいるときがある。モーニングセットを頼んだ人が多いときだ。店員は一人なのでパンを焼きながら注文を受け、それが終わるとパンにバター塗り、二つに切る。三村はそんなものは食べない。食べてから朝の喫茶店へ行くためだ。
 店員が背中を向けてトーストやゆで卵を盛り合わせているのを見ながら、朝食について考えたのだ。これは凄いテーマでもなく、大事なことでもないが。
 三村は五年ほど前までは、朝は喫茶店のモーニングサービスですませていた。トーストとゆで卵だ。喫茶店へ行かないときはコンビニでサンドイッチと牛乳や野菜ジュースなどを買って食べていた。
 朝、ご飯を食べるようになったのは体調を崩してからだ。それまでもたまに自炊していたが、朝からは作らなかった。食事の殆どは外食か、出来物を買って食べていたのだ。しかし、たまには作っており、このときは味噌汁とご飯だけというシンプルなものが多かった。素朴な感じがするためだろう。だから、作る道具は揃っている。いつでも作れるのだが、面倒なので作らなかった。それに食材を買っていないと作れない。だが、味噌汁は味噌だけあれば何とかなる。
 外食や出来物ばかり食べていたため体調を崩したのかどうかは分からないが、所謂成人病になった。それで野菜中心の食事を勧められた。薬を飲むより、食べるものを変える方がよいと聞いたので、それを実行した。
 それで、喫茶店のモーニングセットをやめ、ご飯と味噌汁からスタートした。
 たまに朝早くから遠出する用事のときは、駅のターミナル付近でモーニングセットを食べたりするが、もう口に合わなくなっている。
 最近は味噌汁だけではなく、焼きシャケやアジの干物とか、夜に作った煮物の残りとかを食べている。当然目玉焼きや、ハムエッグなども。これは非常に豪華な朝食に変化し、トーストとゆで卵だけの朝食に戻れないのは当然だろう。
 食欲のないときは、茶碗に少しだけご飯をよせたり、お茶漬けにする。おかずを食べる気がしないときは、梅干しをなめた。この調整が喫茶店のモーニングセットではできない。残すしかないのだ。
 今では自分で作る朝食でないと、食べた気がしなくなっているが、旅館などに泊まった朝に出る食事に近いものがあり、結構豪華なのだ。
 その原型はよく分からない。そのモデルは学食の朝定食かもしれない。ご飯と味噌汁と沢庵。それだけだが味噌汁の中に色々と具が多く入っていた。これがベースになっている。
 さて、喫茶店のレジだが、モーニングを注文する人が多いためか、札を配りだした。番号が書いてある。用意ができれば、マイクで呼び出すようだ。
 急ぐ人はレジ前の冷蔵庫に入っているサンドイッチにしている。
 三村はサンドイッチなら食べてもいいとは思うものの、朝、既に食べてきたので、その機会もないようだ。
 
   了

 


2015年11月10日

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