小説 川崎サイト

 

占い所


「この占い師、本物だと思います」
 妖怪博士付きの編集者が話している。
「お寺へ向かう参道に一軒だけあるんです。たったの一軒ですよ。他の参道では最近では占い所だらけと聞いているので、少なすぎるのです」
「占い師か。歳は?」
「まだ、中年です」
「婆さんじゃない」
「はい」
「占い方法は」
「洋式ですが、運命鑑定とか、その他、何でもありのようです」
「タロットもやるしカルタも花札もやるか」
「カルタはないと思います。竹の棒も振るとか」
「あれは何と言ったのかなあ。串のようなやつ」
「串カツならジャンボ焼きサイズです」
「じゃ、占いの百貨店なので一軒でいいのじゃないか」
「ですから、他の参道ではもっと多いのです」
「それで、本物だと」
「きっとよく当たるんです。結構評判になっています」
「他の占い所は、どうしてない」
「土産物屋が引退して、そこが占い所になったりしていたようですが、すぐに潰れるそうです」
「ほう」
「実際にはできては消え、できては消えているようです。勝負にならないんですよ。それほどよく当たるので、そこばかりが流行っているとか」
「妨害しているんじゃないか」
「え、当たるのをですか」
「いやいや、営業妨害のような」
「それはないでしょ」
「その占い師、土地の親玉の関係者で、その子分が嫌がらせをしているとか」
「そんな時代じゃないですよ」
「その参道、何処が仕切っておるのかね」
「参道商店組合でしょ」
「ほほう」
「事務所がありました」
「ううむ」
「流しの占い師も、この沿道にはテーブルを立てないと言います。勝負にならないのでしょう」
「仕切っているのは組合だけとは限らん」
「じゃあ、何処が」
「妨害しているんだろう。新しくできた占い所に嫌がらせをするとか」
「そうではなく、この占い師が念を送って妨害しているのではありませんか」
「君は、そんなことを本気で思っているのかね」
「半分は」
「何か事情があるんだろ」
「それじゃオカルトになりません。その占い師、実は魔法も使えて、他の占い師を根付かせないようにとか」
「何か裏で営業妨害をやっているんだ」
「分かりました。もう一度調べてきます」
 しばらくして、編集者がやってきた。
「妙な具合です先生」
「どうした」
「商店組合から聞いたのですが、あの参道、本当は占い所禁止なんだそうです」
「それなのに、ぽつんぽつんとできるのだろ」
「まあ、緩い規制なんでしょ。空き家も多いですから」
「何だろう」
「実はこのお寺、占いの寺としても有名らしいんです。境内にも占い所があるとか」
「おみくじのようなものだろ」
「そうですが、結構値段が高いのです」
「ほう」
「それで、参道での占いを禁止にしたいようですが、商店組合が適当なので、緩いんだそうです」
「じゃ、一軒だけある占い師は何だ」
「お寺の縁者で、公認だそうです」
「うーん」
「占い所は山道を少し登ったところにあります。お寺は十倍ほど先です。だから、お寺まで辿り着けない人向けだそうです」
「じゃ、寺の直営店か」
「そうじゃありませんが、この一軒だけ許されているとか」
「私の出番はなさそうだな」
「はい。その占い師と対談して欲しかったのですが」
「裏のある占い師ではのう」
 
   了


2015年11月11日

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