小説 川崎サイト

 

個人情報


「甥の伸介の友達の竹中君というのが、今度自動車運転免許の通信講座を受けようとしているのだが、この竹中君の伯父がまた偉い人で、地方政治家だが、この人が偉いのではなく、側近に切れ者がいて」
「もう、ついて行けません」
「あ、そう。どのあたりから」
「甥子さんの伸介さんまでです。その友達の竹中君で限界です。通信講座は無視です。地方政治家になると、もう興味の外です」
「あ、そう」
「その政治家ではなく、側近が偉い人というのは少し興味がいきますが、甥子さんの伸介さんについての話を聞きたかったのです。だから、その友達の竹中君には興味がありません」
「いやいや、甥っ子の説明に必要ではないかと思いましてね。友人関係の」
「それはいいのですが、通信教育は余計でしょう」
「え、でも、竹中君が今何をやっているのかは周辺情報として必要では」
「その竹中君の通信教育と、あなたの甥子さんの伸介さんとは関係しますか」
「通信教育は関係しないが、伸介がそんな話をしていたので」
「私が知りたいのは甥子さんの伸介さん自身のことです」
「それは竹中君の伯父の政治家の側近の話が終わってから始めようと思っていたのですが」
「じゃ、続けて下さい」
「側近といっても秘書です。この人が切れ者でして、髪の毛が短くて硬い。これは切れますよ」
「それと甥子さんとは関係しないでしょ」
「はいはい」
「それが終われば、甥子さん自身の話になるのですね」
「そうです。その秘書、鎌鼬と呼ばれていて、それはもう切れる切れる」
「はい」
「あるときなど、パーティーで彼とすれ違っただけで、切られていました」
「え、何処を」
「頬です」
「頬」
「その秘書は背はあまり高くなく、相手は平均的な身長でしたが、すれ違ったとき、秘書の頭と相手の顔がバッティングしました」
「満員電車じゃないでしょ。そこまで接近しますか」
「ああ、お互い、避けようとして、逆方向と思いきや、互いに寄ってしまったので」
「ぶつかったのは分かりますが、そんな髪の毛では切れないでしょ」
「はい、嘘です」
「どうして、そんな嘘を」
「それほど切れると言いたかったのです」
「カミソリのように頭が切れる人なのですね」
「そうです」
「それで、終わりましたか」
「はい、これで甥の友達の伯父の秘書について、やっと話せました」
「はい、では甥子さんは、どんな方ですか。伸介さんでしたね」
「それはプライベートになりますので、個人情報はこれ以上話せません」
「でも竹中君のことは話せるのですね。叔父さんの秘書のことまで」
「あ、はい」
 
   了


2015年11月12日

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