小説 川崎サイト

 

ある共有


 地方地方、土地土地に謂われがあり、それらを共有していた時代がある。それほど広い世界ではなく、身近な世界だ。村とかがそうだろう。
 その共有というものが広くなり、ただの情報になってしまうと、薄いものになる。決してそれは軽いものではないが、多すぎるのだ。共有が多いと、ひとつのことだけに構ってられない。それに時期が過ぎると、そんな共有もいつの間にか消えていたりする。
 その村には昔から共有しているものがある。それはどの村でもそうだろう、似たようなものを共有している。その村は本家と分家の存在が大きい。表杉本と裏杉本がある。本杉本と別杉本、または分け杉本とも言われている。このあたり、世代により言い方が違う。
 長くこの村は杉本家が仕切っていた。つまり本家に二人の息子がおり、長男は本家を継ぎ、次男は分家した。これが最初だ。この二つの家が、この村のヌシのようなものだが、派閥ができ、本家派と分家派に別れてしまった。これが今日まで続いている。
 実は長女がおり、この人が嫁いだ家が沢村家だ。つまり、杉本家には三人の子供がいたわけで、最初に生まれた長女は跡は継げないのだが、この人がきつい人で、第三勢力になった。つまり三家がこの村を回しているようなものだ。
 沢村家は杉本家に次ぐ大きな家なので、これで完全に村はこの三家のものになった。
 当然今はまったく様子は変わっており、杉本本家も分家も、沢村家の力などさほどではない。
 三つの家に別れたときの威勢はもうないのだが、それら息子や娘達の孫のまた孫の時代になっても、何等かの形で、残っている。
 この村は、現代ではもう村ではなく町になっているが旧村時代の名字は杉本か沢村だけになっている。他の家は消えてしまっている。今は町の人口も増え、杉本、沢村姓は目立たない存在になったが。
 この場合の共有とは、この三家の縁者だけに今でも当てはまる。町の行事や政、大事なことは、この三家が未だに仕切っている。本家からの分家、その分家からの分家などが続いたり、養子や養女もいる。当然初代の分け杉本や沢村の分家の分家もいる。ただ基本は三家ということで、ここで色分けされている。しかし、本家と分家の縁組み、沢村家と本家や分家との縁組みもあり、しっかりと三つには分けにくくなっている。
 実際には本家の娘が嫁いだ沢村家が一番繁栄し、村一番の長者となっていた。
 本家を継いだ長男は、この姉が嫌いで、先ずそこで衝突が起こり、これが本家が衰えるきっかけとなった。分家の次男は姉と仲が良く、そのため、沢村家は分家と組んだのだ。
 少し前までは、誰でも知っていることで、これが共有されていたのだが、今はこの町に引っ越して来た人達は、当然そんなことは知らない。
 ただ、少しだけ杉本や沢村の名字が多い程度の認識だ。
 
   了


2015年11月13日

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