小説 川崎サイト

 

サツマイモ男


「お昼はサツマイモがいいです」
「薩摩芋ですか」
「これで食費が浮いて、月末お金がなくなることもなくなりました」
「安いのですか」
「はい、安いです。悪いのがね。しかし、この形が悪くて長細いタイプの方が美味しいのです。皮の色も悪いので、見てくれも悪いのですが、食べると美味しい。いや、柔らかいと言ってもいいです。私の口に合います。ほこほこです。栗より美味いサツマイモって言いますが、それは硬い目のサツマイモでしてね。私、栗はそれほど好きじゃありません。それに栗は高いでしょ。自分で買ったことはありません。あ、ありました。若い頃、会社の帰りに天津甘栗を買いましたわ。煎っているでしょ。皮の色が油でピカピカ。皮を食べるわけじゃありませんが、どんなものなのか、一度食べてみたかったのでしょうねえ。その後二度と買いません。丈夫な赤い紙の袋に入っているんです。今でもあるでしょ」
「サツマイモの話はどうなりました」
「それそれ」
「安いと言うことでしょ」
「それもありますが、身体の調子も良いのです。昼はランチで、日替わりランチを食べていました。これがもうフライもの、揚げ物ばかり、全部油を使った料理なんですよね。だからよく胸焼けしていましたよ。それに高い。だからこういう店、どんどん潰れていってますよ。それはいいのですが、サツマイモに変えてからどれだけお金が残るかです。それと体調です。洋食のしつこいのを食べるより、サツマイモの方が健康にはいい。私個人の話ですがね」
「芋ばかり食ってると屁ばかり出ませんか」
「出ません」
「ほう」
「まあ、出た方がいいのですよ。悪いガスを出した方がね。腹が痛くなるのはガスが溜まっていたりするからです。だから、サツマイモを食べて屁をするのは、いいことですよ。しかし、今は出ません。サツマイモを毎日食べているので、腸の掃除になるのでしょうなあ。これは勝手な推測ですから、本気にしないで下さい」
「しかし、昼、サツマイモだけじゃ貧しいでしょ。寂しいでしょ」
「お腹が空いていないときも多いんですよ、お昼は。朝食が遅いためかもしれません。それを無理に食べていたんですがね、サツマイモに代えてからそれがなくなりました。一本丸ごと食べられないときのために、また蒸し器の関係で、一本そのまま入らない。長いためです。丸いタイプは私、買いません。安いのは長くて汚いタイプですから。これを二つに切って蒸し器に入れます。だから、出来上がると二つ。一本の半分。だから半分なら腹が減っていなくても食べられます。減っていないときや食欲がないときは半分で、普通のときは全部食べます。残った場合は、少し間隔を置いて、おやつの時間に食べます。無理に食べないことです」
「聞いていて、だるいのですが」
「細かい話はそんなものです。それにあなた、サツマイモに関して興味がないでしょ」
「ありません」
「戦中戦後の食糧難のときでもサツマイモはあったのですよ。それに芋を主食とする民族もいる。当然時代劇に出てくるような飢饉のとき、サツマイモが出てくる。米が実らない土地でもサツマイモなら栽培できたりします」
「はいはい」
「私は一日三食食べています。その一食がパンでも、うどんでもそばでもラーメンでもピザでもいいのですが、サツマイモに代えてみなさい。お金が残ります。私は残さず月末に使いますが、サツマイモのおかげで一寸したものが買えたりします。昼代が数百円浮くわけですからね。これで一寸高い高級魚、いや中級ですが、それが買える。魚は肉より高いですからね。肉より魚を食べている方が身体に良い。これもサツマイモのおかげですよ」
「まあ、話としてはだるくて、聞くのもしんどいですし、それに昼にサツマイモを蒸かす時間、私にはありませんよ。それにやはり屁が出る」
「サツマイモを食べて、出し切るのです。あとは出ません。だからサツマイモを食べると、屁放き虫のようになるというのは嘘です。屁放き虫も始終こいているわけじゃないでしょ。此処一番の危機のときだけでしょ。スカンクもイタチもそうです。決して始終こきっぱなしじゃない」
「はいはい」
 この男、会話中、屁こそこかなかったが、その代わり屁理屈をこきっぱなしだった。
 

   了




2015年11月17日

小説 川崎サイト