小説 川崎サイト



神を見た

川崎ゆきお



 無職になった竹田は暇である。会社が潰れたのだから竹田のせいではない。しかし、潰れるような会社に就職した点は、竹田にも落ち度がある。決して運命ではない。
 今度は潰れない会社への就職を考えているが、なかなか見付からない。潰れるのは小さな会社とは限らない。そのあたりの選択基準は、見た目では分からないが、大きな会社なら、何とかなるのではないかと考えた。
 もちろん考えているだけではない。何社かを訪問している。
 しかし、それだけでは一日持たない。暇な時間のほうが多い。
 その日は近くの神社へ行った。住宅地をうろうろしていると不審者に間違われる。公園でのんびり過ごすわけにもいかない。児童を見ると竹田の方から先に逃げ出した。
 緑地にはホームレスがいた。それを見るのも嫌な思いになる。二つか三つ間違えれば、同じ運命を辿る。
 そこで竹田は神社に来た。鳥居には仕切りがない。寺の山門なら閉めることが出来るが、鳥居は誰でも潜れ、境内に入れる。
 神社は聖なる場所だ。聖地だ。日常からかけ離れた世界だ。
 竹田は、そこに入り込むことで、何かよいことでもあるように思えた。神聖なオーラーでも受けられるような雰囲気がある。
 土や玉砂利の感触も足の裏に快い。靴底の上からでも聖なる地面と繋がっていそうで、下から聖なる力を貰っているような気がする。
 やはり緑が多いため、酸素も豊富なのだ。それに目に緑は快く入る。
 人工物ばかり見ていると、自然の形が懐かしい。太古から見慣れた光景なのかもしれない。
 竹田は、神殿の階段に腰掛け、線香立てを灰皿に煙草を吸った。
 結局は神頼みか……と煙と一緒に言葉を吐き出す。
 その煙がモヤモヤと立ちのぼり、人の背丈ほどの高さで止まった。真上に煙が立ったのだ。煙は人のように立っている。
「やった」
 竹田は聖なるものを視覚的にはっきりと見た。すぐに携帯のカメラで写した。それほどはっきりとした形なのだ。
「あなたは、もしや神様では?」
 竹田は聞いたが、返事は聞こえてこない。
「大きな会社へ就職出来ますように」
 竹田は、願い事を伝えた。
 煙りはゆっくりと消えていった。煙草の煙なら、流れてゆくはずだが、その煙は異空間へ消え去るように姿を消した。
 竹田は、携帯カメラで再生したが、そのファイルには煙りは写っていなかった。
 竹田は三カ月後、大きな会社へ入社出来た。
 神様のお陰かどうかは分からない。
 
   了
 
 



          2007年2月24日
 

 

 

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