小説 川崎サイト

 

魔人


「この帽子をかぶるようになってから、あまりいいことがありません。路上でトラブルに巻き込まれたり、因縁を付けられたりします」
「普通の帽子じゃありませんか」
「以前のものより若々しい形だし、色なのですが、これが問題なのかもしれません」
「そんなことはないでしょ」
「帽子だけではなく、上着もです。この上着にしてからろくなことがありません」
「それは、言いがかりのようなもので」
「そうです。人様から言いがかりを付けられるので、自分自身に対しても言いがかりを付けたくなりました。そのため、言いがかりを含んだ帽子と上着です」
「まあ、御勝手に」
「それとこのカメラ、これを持ち出すと、同じようにいいことがない。不審者と間違われたり、何か怪しげな人に見られて、声を掛けられたりします。あなた、何をここでしているのですか、などとね」
「ほう」
「昨日などは、その帽子と上着とカメラのトリオでしたから、ろくなことはなかった」
「そのカメラは愛用のカメラですか」
「違います」
「帽子は」
「最近買ったものです」
「上着は」
「これも最近のものです」
「しかし、それが原因だとは思えません。それで、カメラはどんなカメラです。目立つような」
「普通のコンパクトカメラです。帽子も上着もカメラも普通です。よく見かけるような」
「魔除けが必要ですね」
「魔除け」
「その帽子も、上着も、カメラも、魔除け機能がないためです」
「魔除け機能」
「上着なら、防水加工とかあるでしょ。あれと同じです。その中に魔除け加工なり、魔除け機能があるのです」
「魔除けになる帽子ですか」
「そうではなく、魔除け加工が施されている帽子です。帽子は帽子、上着は上着、そんなものには最初から魔除け機能などは入っていません」
「それを入れるにはどうすればいいのですか」
「帽子なら、ちょっとしたものを付ければいいのです。バッジでも何でもかまいません。魔除けのアクセサリーを付けることです。上着もそうです」
「カメラは」
「魔除けストラップを付ければいいのです」
「そんなの、何処で売られています」
「ストラップは多いですよ。そういうのは、神社でも売られていますし、縁起もストラップは百均でもあります」
「あ、はい。じゃ、お守りのようなものですね」
「そうです」
「でも、今まで、そんなものを付けていなかったですよ。帽子も上着もカメラも」
「それらは長くあなたが愛用してきたものでしょ」
「そうです」
「じゃ、あなたの魔がそこに染みこんでいますから、それが効いたのでしょ」
「私は魔人か」
 
   了


 


2015年12月16日

小説 川崎サイト