小説 川崎サイト

 

街道流し


 旧街道の走る町並みは、もう昔の面影など残っておらず、街道跡の石碑が傾きながら立っている程度。
 下村はそんな旧街道が走っていた場所だとは知らないで、散策を続けていた。これは自分の町とは少し違う隣町や、さらにもっと離れた町へワープし、そこでまるで町内の人のように歩くのを趣味にしていた。そのため服装も普段着で、散歩者のそれではない。近所の人がコンビニでも行くような姿だ。
 下村はこの町内に入り込んだとき、おおよその雰囲気、町の様子などを把握した。それはパターンがあるからだ。
 その町は古い街並みではなく、田畑があった場所に住宅が建ち並んでいるのだろう。そのため、すぐに行き止まりになる。その覚悟はできているので、突き当たりに出れば戻ればいい。特にその先に目的地があるわけではないので、問題はない。それでもできるだけ幅広くスキャンしたい。つまり町を効率よく見て回りたいので、同じ道を引き返すのは芸がない。
 そのため、注意深く抜けられる道かどうかを気にしながら枝道に入って行くのだが、何度も失敗し、引き返さないといけない羽目になる。これは阿弥陀籤を引くようなものだ。下村は引き慣れているので、何とか勘で分かるのだが、それでもスカが多い。非常に手強い町だと言わねばならないだろう。
 比較的大きい目の道を選んでいるのがいけないようで、そういう道は車が通れるようになっている。住んでいる人のマイカーだろう。これは道幅が広いようでも、遠くまで続く道ではない。すぐに行き止まりとなるのは、分譲住宅のためだ。これは何度も経験している。
 それで、ずっとスカで、なかなか先へ進めないでウロウロしているとき、幅が一メートルほどの通路を発見した。これは分譲住宅地では有り得ないような小径だ。路地だ。その先に大きな木があることから神社があるようで、前方を見ると古い屋根瓦がある。昔から住んでいる人の家だろうか。農家かもしれないが田圃はもうない。
 意外とこういう道が遠くまで繋がっているはず。しかし、ブロック塀やモータープールに挟まれた、ただの境界線の余地かもしれない。舗装はされていないが、砂利が敷かれている。その先で曲がっているのか、奥まで見えない。
 おそらく旧村時代、神社へと続く道だったはず。なぜなら神社へ至る道というのは結構あり、道が集まっている。
 下村はこれだと思い、入り込む。少しカーブしているところを曲がり込むと、またカーブ。家の裏側や排水溝などと接しながらも続いている。案の定農家跡らしい大きな屋敷の横、これは裏側だろう。そこを抜けた辺りで、風景が一変した。
 下村が見付けた狭い道は、実は旧街道へ続く村道だった。
 あれから新しい時代が書き込まれていない。そんな風景が目の前に拡がっている。街道沿いの田園地帯が拡がっている。人が歩いているとすれば、時代劇のスタイルだろう。
 危ないと思い、下村は後ろを振り返った。そこは断面。つまり現代が書き込まれている住宅地。ぱっさりとそこで切られているのだ。これが見えている間にと、切り口のような穴の空いた細い道に戻った。後ろを振り向くと田園地帯がまだ見える。
 さらに戻ると、道がカーブしているためか、もう見晴らしはきかない。
 街道流し。これは下村がこの話を妖怪博士に語ったとき、そういう妖怪がいて、旧街道の時代へ流すとか。
 実際には大きな工場が更地になり、しばらく放置されている空間にでも出たのだろう。
 
   了



2016年3月25日

小説 川崎サイト