小説 川崎サイト

 

イタチの怪


 しもた屋の並ぶ通りがある。しもた屋とは、仕舞ったと言う意味だろうか。要するに昔のシャッター街だ。漢字で書くと仕舞た屋となる。こちらの方が字面で想像が付く。商売、その時代なら商いだろうか。商人の店であり、住居でもある。この店も、商品を見せる、見せ屋ということだろうか。
 もう見せるものはない商家、仕舞た屋がずらりと並んでいる。仕舞た屋として営業しているわけではない。中には店は広いが居住空間が狭い仕舞た屋は人はもう住んでいない。これはオフィス的な店だっのだろう。口入れ屋とか。これは、中間に入っての取引や、仕事を斡旋したり紹介する場所なので、見せるようなものは並んでいないが、求人の貼り紙程度は、壁に並んでいたかもしれない。
 その仕舞た屋が並ぶ通りで欺される人が多かった。これは化かされと言っている。
 見るものもない通りなのだが、ぽつんぽつんと人が歩いている。身なりの良い人もおり、遊び人風な人、商人、また農夫もいる。もう買い物などできる場所ではないのだが、普通の家よりも見応えがあるのだろう。ここが寂れたのは、川の流れが変わったため、もう川船が寄り付かない。そのため人や荷が集まる場所ではなくなった。
 そこを歩いていた昭作という農夫が、通りの隅でうずくまっている女性を見た。少し粋な女で、素人ではないようだ。腹を押さえている。これで気付きそうなものだが、昭作も当然それに気付き、これだと喜んだ。
 女は仕舞た屋の一軒に住んでいるらしい。ではそこまで送りましょうと、当然なる。昭作の期待通りの展開で、この話は噂で聞いていた。だから、ここまで来たのだ。
 仕舞た屋の二階でいい思いをしながら寝入ったが、起きると仕舞た屋通りの裏で素っ裸で転がっていた。
 昭作には家族もいるし、村人の手前もある。そこで噂話通りのことを語った。
 それは、この仕舞た屋通り、イタチがよく出るらしく、それに化かされたようだと。
 イタチにはとんだ濡れ衣だが、周囲の人達は昭作の言い分を信じるしかなかったようだ。
 その後、昭作は真面目に働き、また小金を貯めては、イタチに化かされるのだが、これは二度までで、三度目は、もういけないようだ。
 
   了




2016年3月28日

小説 川崎サイト