小説 川崎サイト

 

小川のプレッシャー


 長く気になっていた用件を済ませた小川は、外に出たとき、風景が違っているように思えた。余程そのプレッシャーがかかっていたのだろう。それで霧が晴れ、風景が鮮明に見えるのかもしれない。また風景からの跳ね返りが違う。今までよそよそしく殺風景だったものが和やかになり、自分もその中に溶け込んでいくような。
 これは錯覚ではないのだが、人とは意外と精神的に脆いもので、その影響が顔にも出るし、態度や仕草にも出る。ただ足が重いだけの階段も、軽く感じられる。さらに風邪気味だった体調も、その用件が終わると、吹き飛んでしまった。何処へ抜けたのかは分からないが、体調にまで影響していたのだろう。
 これを機に小川は人と接するとき、その含みを感じるようになった。これこそ錯覚だ。例えばいつも仏頂面で含蓄のあるような含みのある顔で、思慮深い態度で、常に威圧的な上司のことだ。この人はきっと他に何かプレッシャーが何枚もかかっているため、目先の用件ではなく、他のところからの影響で、そういう顔付きになっているのだと。
 苦労人は苦労した顔になるらしいが、どの箇所に苦労の線が出ているのかは分かりにくい。元々そういう顔付きの人かもしれないが、気苦労の多い人は、それだけ心配事も多く、その影響で小さなことでも重苦しい顔になったりする。
 小川がそう思うのは、むっつりした人や厳つい人が嫌いだ。別に何も起こっていないのに、怒り顔で、しかめ面をしている。顔をしかめるようなことを小川はしていないのに。
 しかしデフォルトがそんな顔の人もいるので、これは判断が難しい。愛想で、笑顔でも見せればいいのだが、素直な人なのだろう。笑っている状況ではないためか、芝居もできない。
 しかし小川が得た結論では、いつもしかめ面をしている人は本人の問題で、小川の問題ではないということだろうか。何か良くない内情を抱えている人だと判断することにした。
 ただ、そういう人でも、にこやかに振る舞う人も知っているので、全てに当てはまるわけではない。
 さて、その小川だが、プレッシャーが取れ、いつもの小川に戻れたのだが、この解放感は、プレッシャーあってのことで、それが解決すれば、気持ちがいいことも分かった。
 しかし、自分がそうだからといって、他の人も同じだとは限らない。
 
   了


2016年4月4日

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