小説 川崎サイト

 

幽霊屋敷の秘密


 幽霊屋敷が解体された。小領主の別荘で、当然人から人へと渡り、最後までここに住んでいた一家が一番長かった。その時期から幽霊屋敷と呼ばれるようになっている。ただ幽霊が出るのは屋敷、建物あってのことで、それが消えると、幽霊も消えた。今は資材置き場になり、もう怪談は起こっていない。
 夜中、廊下を歩く足音、ドアのノブが鳴る音。窓にすっと誰かの影。そのタイプの幽霊だが、古い肖像画が夜中、変わっていたりもした。そんな恐ろしい屋敷によく住み続けたものだと思えるが、四代もここで暮らしていた。五代目のとき、建物の傷みが激しく、その補修費がないことから、手放した。
 この時代になると、もう執事などいない。最後の執事は当然職を失ったが、蓄えがある。これは主人の財産より多いのではないかと思えるほどだ。この執事一族も四代に渡り役得で甘い汁を吸っていたのだろう。今は都心部で豪華なマンション住まい。
 四代目執事の子供は五代目を継げないまま金満家として暮らしている。
 その執事の子が幽霊の正体について語り出した。幽霊を出していたのは、この歴代の執事らしい。代々、主人に仕えながら出し続けてきた。それを告白した。
 何のためそんなことをしつこくやっていたのかは分からない。主人家族を怖がらせるためなら、何等かの理由があるだろう。初代の執事と当時の主人との関係は悪くはない。また過去何かがあったわけでもなさそうなので、復讐でもない。
 主人家族や泊まり客は怪しげな物音や、人の気配、肖像画が変わっていたり、真夜中の食卓にランプが一つだけ点いていたりと、怪しいことが四代に渡って続いているのに、逃げ出すようなことはなかった。それを地味に演出し続けた執事も大変だったろうが、それが執事の仕事だと思っていたのかもしれない。幽霊をたまに出すことが。
 この地方では結構幽霊屋敷が多くあり、一番多く出ていたのが古城だ。これは一種のハクだと言われている。箔が付くのハクだ。名誉なことなのかどうか分からないが、幽霊の一つや二つ出る屋敷でないと一流とは言えなかったのだろう。
 そのためか、初代の屋敷の主人が執事に密かに命じたのかもしれない。しかし四代に渡って、それを実行し続けたのだから、大したものだ。
 
   了



2016年4月5日

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