小説 川崎サイト

 

外野の淵


 この道をそのまま走ると何処へ行くのだろうか。というような疑問は友田にはない。確かにその国道を走り抜けると別の国道と繋がり、海に出てしまうだろう。その最果ての町にも友田は行ったことがある。それには夜行バスで一晩かかる。決して散歩の延長では有り得ない。
 友田はその国道の歩道をある程度行ったところで、左折し、違う道で家に戻る。曲がる場所は毎回決まっていないが、一番遠いところは決まっている。それより先は何かの用事がなければ行かない。
 友田は早朝の自転車散歩を日課としており、決まった時間に朝食を食べるため、遠くまでは行かない。朝食に間に合う距離だ。これが友田の結界となっている。家から離れれば離れるほど帰り道も遠くなる。それを計算すれば、折り返し地点も決まる。早い目に折り返すときは調子が悪いとき。そのため、早く帰って来る。
 つまり結界内は内野で、その先は外野。しかし見知らぬ町や風景が続いているわけではない。その先へ行くことは殆どないが、どんな町並みになっているのかは分からない。特にここ二三年、外野に出ることは希だ。そこは郊外の国道沿いのため、車がないと通る機会はない。
 その朝、友田は外野が気になった。これは元気な証拠だ。しかしそれにはリスクが伴う。帰りが遅くなる。一時間以内の遅れなら、それほど問題はない。家に電話をすればいいだけ。しかし、その理由が言いにくい。散歩が長くなるから、でもかまわないのだが、そんなことは今までにはない。途中で何かに巻き込まれたり、用事ができてしまったなどもない。
 さて、外野に出た友田だが、すぐに看板が目に入った。二三年前、ここを通ったときは、そんな店はなかった。新しくできた店は焼き肉屋のようだ。肉と大きな文字看板が目立つ。
 その先に確かファミレスとハンバーグの店があったのだが、両方とも潰れている。昔からたまに寄っていたカー用品の店は無事なようだが、かなり古びてしまい、中古タイヤ店のようになっている。
 さらにその先に大きな自転車屋があり、自転車散歩を楽しむようになってからは何度も来ていた。もう少し軽い自転車に乗り換えたかったので。
 外野といっても、見知った場所。未知なる領域ではない。公団住宅がいやにすっきりとしている。これはもう住んでいないのだろう。洗濯物が一つもない。その下に商店街があったのだが、それも当然廃墟だ。公団住宅と一緒に客も店も消えた。その横で工事が始まっている。きっと超高層公団住宅が建つのだろう。反対運動の看板も見える。
 そういう風景は特に異常ではなく、友田の内野内でもある光景だ。
 その先は大きな川があり、土手へ向かって長い坂が続いている。さすがにその橋を渡ると本当に帰るのが遅くなるため、友田は引き返した。
 内野から少しだけ出た外野、美味しいのはその辺りだろう。それにすぐに戻れる。
 友田はそこからスピードを上げながら引き返したため、思ったより早く帰り、朝食も意外と早い目に食べることができた。
 
   了

 


2016年4月18日

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