小説 川崎サイト

 

選ばれし者


 選ばれし者達が集まってきた。そこは山沿いのドライブインで、それが天守を持つ城になり、しばらく不夜城のように明るかったのだが、そのラブホも消え、今は救済の家として営業していた。この場合、活動だろうか。
 試験はネット上で行われ、それに合格した人達がやって来た。十三人いる。それぞれ個室が与えられた。そういう施設はデフォルトであるため、宿泊には困らない。
 合格者は使徒と呼ばれ、定員は十三人。本当は十二人の使徒なのだが、リーダーは別格で、それを入れると十三人。
 このリーダーは主催者側だが、位は平使徒と同じ。つまり全員同じ身分だ。
 救済の家のスタッフは十人から二十人近くで回している。いずれもドライブインや、ラブホ時代からいる近在の人達だ。それがそのまま救済の家でも働いている。
 だから、主催者込みの十三人よりも、この場所では先輩になる。
 さて、合格した十二人だが、ここで宿泊し、研修となる。つまり合宿だが、各自個室が用意されているが、各部屋に大きな風呂まであるし、三間もあるような間取りの部屋もある。これは豪華すぎる。
 救済の家、それはボランティア、慈善事業。背景には何もない。金満家ががやり始めたことで、まあ、一種の道楽だろう。税金対策だとも言われている。これだけ人を集め、その収入がないのだから、全て赤字。
 そういう汚い話ではなく、リーダーは人々を救うための戦いを始めたのだ。そのためには一人ではできない。ラブホのスタッフではなく、救済者としての使徒が必要だった。
 研修中も工事が行われ、天守閣が改装され、寺院のような形に変わったが、張りぼてのようなもので、中は鉄塔で部屋があるわけではない。
 そして、ドライブイン時代からある大食堂を教室とした。教会とは言えないのは、あがめるものがないためだ。また宗教法人の資格はすぐには取れない。活動した実績、等々が必要なためだろう。
 この大食堂はドライブイン時代はメインの母屋だったが、ラブホ時代は使われていなかった。
 ここまではいい。問題は使徒達だ。
 ネット上での写真と本人の顔がかなり違う。試験は論文のようなもので決めたのだが、どうも理解して書いたのではなく、所謂コピペものだろうか。そのため、カントは神についてどう説明しようとしたか、などと突っ込むと、もう分からない。ヘーゲルの場合はどうか、となると、もうさっぱりだ。
 しかし十二人の使徒達は、純白の長いドレスのような使徒服と、ボーイスカウトのような帽子をかぶっている。それなりに様になるのだが、中身が頼りない。
 選ばれし使徒達、選ばれるまでは特に優れた人達ではなかったようで、結局食い扶持を求めて応募したのだろう。そして、そんな使徒試験などに合格するとは思わなかったので、合格通知をもらったとき、神秘を感じたようだ。つまり、神から選ばれたのだと。
 しかし選ばれたのだが、選ばれていなかった。選ばれし者達だが、教習が始まると、選ばれざる人達であることは誰の目にも明らかになっていった。
 リーダーは落胆した。あまりにも教養が無く、レベルの低い人達のため。
 使徒の一人で、実業家崩れの男がそっと漏らした「選ぶ側にも問題がある」と。
 
   了

 



2016年5月30日

小説 川崎サイト