小説 川崎サイト

 

何かある


「何かある」
「はい」
「何かあるが、それが何であるのかは分からない」
「一寸、用事ができましたので」
「少し待て」
「はい」
「大事な話になるかもしれん」
「あ、はい」
「君の一寸した用事より、いい用事ができるかもしれないよ」
「お聞きします」
「何かありそうなんだ」
「はい」
「腹に何かがある」
「はい。早くお願いします」
「何かじゃなく、腹に一物も二物もある」
「腹案があおりで」
「いや贓物だ。おそらく腹の中には腸とかそんなものが入っているのだろう。開けて見たわけじゃないが、何かが入っていることは分かっている」
「腹案をお聞かせください」
「何かあるのだが、よく分からん。しかしあることは確か。何かある」
「分かってからお願いします。一寸用事がありますので」
「君は余裕がないのか。何かもう少し探りを入れる気はないのかね」
「はあ」
「だから、私が何かあると言っている。それは何でしょうかと、勘を働かせる気がないのか」
「ああ」
「何かあるんだ」
「それは何か情緒的なものですか」
「違う。勘だ。これは匂う。何かあるから、そういう匂いがする。私には分かる。裏で何かがあるんだ」
「一体何があるのです」
「だから、分からない。分からないが、何かがある。何かが起こっている」
「漠然としすぎて」
「だから、何かあるから気をつけよと言っている」
「はい、分かりました。では、今日はこれで」
「そうか」
 餌が足りんようだ。聞き方が荒っぽいと、主人はぼやいた。
 
   了

 


2016年6月1日

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