小説 川崎サイト

 

明知探偵事務所


 明知探偵事務所で働く便所バエ探偵はモニターの前で凍っていた。パソコンのフリーズではなく、本人が凍結状態。生体反応をなくし、目の玉も動かなくなった。凍死だ。
 これは事務所の事務を任せられたのだが、何もできない。やっと探偵事務所で働けるようになったのに、嬉しくも何ともない。本業は探偵だ。しかし探偵事務所とはオフィスで探偵ごっこをするところではなく、事務所なので、事務が含まれる。この事務は普通の事務だ。
 明知は半日ほど、このフリーズを放置していたが、気の毒になり、解放してやった。スタッフ募集の広告は出しているが、来たのはこの便所バエだけ。その後、誰も応募してこない。
「花田さん」
「はい明知さん」
「君は何処で、この事務所を知った」
「はい、職業安定所です」
「そうか」
「おかげで安定しました。そ、それが何か」
「いや、いい、聞いただけです」
「は、はい」
「ところで猟奇王なのですが、実在しているのですか」
「え、実在とは」
「本当にいるのですか」
「いますいます。何度も対決しました。鯖折りで参らせたこともあります」
「鯖折り」
「腰の上あたりに両手を回し、抱き付いて、背骨を折るのです」
「折れないでしょ」
「痛いです。息が出来なくなります」
「そうか」
「だから、僕は直接猟奇王の胴に腕を回したのですから、これは、います」
「ほう」
「また、最後っ屁で猟奇王をダウン寸前まで追いやりました。帰ってからパンツを見ると、出てましたが」
「汚いじゃないか花田さん」
「し失礼しました」
「私がこの事務所を開いたのは、猟奇王がいるかもしれないと思ったからです」
「はい、普通の考え方です」
「そうでしょ。だから探偵事務所をやっていると、いつか必ず猟奇王と遭遇できると」
「そんなことしなくても、僕なんて、始終猟奇王と遭遇していますよ」
「そうなのですか」
「はい」
「不思議だ。世の中は広いはず。そして猟奇王の活動などとんと聞かない。それなのに、花田さんは始終対決していると」
「そうです」
「それは何ですか」
「え」
「その確率の高さは」
「ああ、それは猟奇王が出そうなところを知っているからです」
「猟奇王が出る」
「はい、猟奇王が出そうな場所が何となく分かるのです」
「ほう、それはいいセンサーをお持ちで」
「有り難うございます」
「じゃ、一度連れて行ってください。そんな事務はもうしなくてもいいから、それに、パソコンは電源を入れないと動きませんよ」
「え、スイッチがあったのですか。それが何処にあるか分からないで、そこで止まってしまいました」
「今言おう、今言おうと、何度も思いましたが、他の用件が忙しくて忘れてしまいました」
「今度は早く言ってね」
「はい、それよりも猟奇王が出そうな場所へ案内してください」
「合点承知の助」
「誰ですか、それ」
「ああ、はい」
 ちなみに事務員募集だが、これを探偵助手募集に改め、職安ではなく、便所バエがそれなりのところに貼り紙をした結果、見目麗しき姫探偵が応募してきたので解決した。
 
   了

 


2016年6月3日

小説 川崎サイト