小説 川崎サイト

 

一難去ってまた一難


「一方を攻めると、今まで静かにしていたもう一方の敵が攻めてくる。しかも、有利に進んでいるときに限ってな」
「はい」
「これが人生だと思う」
「そうなんですか」
「それで勝つところだったのに、そこで中止になる。両方と戦える余裕はない。例え戦ったとしても、長引くし、そして勝つ見込みがない」
「前門の虎、後門の狼ですか」
「前門の虎は牙の抜けた虎で、これは勝てる。後門の狼も駄犬のように、一寸脅すと尻尾を巻いて逃げる。しかし、両方から来られるとまずい。前にだけ進む、後ろにだけ後退するのなら良いのだが、両方と戦うとなると、これは挟み撃ちだ」
「それが人生なのですか」
「あちら立てればこちらが立たず。そんな感じだ」
「はいはい」
「しかし、一方を攻めなければ、もう一方も静かにしている。そのもう一方を先に攻め、二度と攻めて来れないようにすればいいのだが、それをすると。もう一方が攻めてくるので、同じこと。何ともならん」
「何もしなければ何処からも攻められないのですね」
「そうだな。平和で良いが、それではじっとしているだけになる。そういう人生も悪くはないがね」
「ではどうやって一方の敵を倒すのですか」
「だから、それが生きる知恵、技巧だな。技だ」
「はあ」
「後方の敵をなだめる。和平のようなもの。悪くても停戦状態に持ち込む。これで攻めて来ないので、安心して一方を攻め取れる」
「ああ」
「だから、一方とは話し合いで解決する。ただしそれは短期間だ。永遠のものではない」
「停戦に応じなければ」
「それなら、だめだ」
「ではやはり力押しで」
「そうだな、前方の敵と戦いながら、後方の敵とも戦う。これは苦しい。だから、一番ベタベタなやり方になるが、これが人生なんだ」
「はい」
「それで、何とか前方の敵を倒せば、後方の敵などわけなくやってしまえるが、そのときには前方にさらに強い敵がいる」
「それも人生ですか」
「そうだな」
「あまりすっきりといきませんねえ」
「だから人生は苦しい」
「一難去ってまた一難ですか」
「ああ、難儀な話だ」
 
   了


2016年6月8日

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