小説 川崎サイト

 

皇帝の謎


「この帝王がよく分からないのですがね」
「何の帝王ですか」
「皇帝のようなものです」
「校庭の帝王、これは学校の番長ですか」
「まあ、番長のようなものですが、王の中の王です」
「ああ、その帝王」
「色々な国があり、その中の番長のように強い奴が、帝王、皇帝になる」
「はい」
「ところが、その帝王の場合、誰だか分からない」
「一番強い勢力でしょ」
「そうです。しかし、その地盤が何処なのかが分からない」
「どういう意味です」
「色々な国は、この帝王に従い、家来になりました」
「はい」
「この皇帝も実は色々な国の中の一つの勢力だったはずです。だから地盤になっている国があるはず。当然、名も」
「それがないのですか」
「そうなんです。しかも出身国も、名字もない」
「ほう」
「当時有力な国は七つほどありました。それぞれ場所は分かっていますし、国名もあります。しかし、帝王にはそれがない」
「その中の一つでしょ」
「その国が見付からない。だから、いきなり各国の上に君臨しているようなものです。天から降りてきたように」
「はい」
「そして、その帝王がどうして国々を統一できたのかも分からない。こんなもの兵力勝負でしょ。武力です。だから一番大きな国とか、力のある国が統一したのですが、その国が分からない」
「その中の一人でしょ」
「そうだと思いますが、出自が分からない。名がないし、出身地もない。いきなり君臨です」
「それを降臨というのです」
「いや、帝王は人ですよ」
「きっと天から降りてきた、天兵でしょ」
「それは神話です。あとで作られた」
「はあ」
「それで、私はこの帝王の出身地を探しました」
「分かりましたか」
「家来になった国々の一つです」
「それは妥当な答えですねえ」
「おそらくこの一族だと思います」
「そこまで分かりましたか」
「簡単ですよ。一番勢力の大きな有力な家来の国です」
「はい」
「これがこの帝国のナンバーワンかナンバーツーです」
「はい」
「その人が実は帝王なのです」
「最初から、そうなんでしょ」
「そうです。当時は、誰でも知っていることでした。しかし、それらは一切記録から消えたのです。だから、それを私は辿っているのですよ」
「暇ですなあ」
「それで分かったのですがね」
「結果は」
「はい、結果は皇帝などいなかった」
「はあ」
「家来が回り持ちでやっていたのです。帝王、皇帝を」
「しかし」
「はい、だから、帝王などいなかった」
「よく分からない話です」
「最初、これに気付いたのは、帝王が最初に持っていた国がない。名もない。これで、ピンとくるはずでしょ」
「それは何処の帝国ですか」
「ゲームの中に出て来る帝国です」
「あ、そう」
 
   了

 



2016年6月24日

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