小説 川崎サイト

 

天守の守り神


 天守の守り神、武神がいる。どんな敵も寄せ付けない神通力がある。だから、この城は落ちることはない。ところが本丸にある天守閣の下まで敵が来ていることで、既に城は落ちているのだ。本丸の前に二の丸三の丸があり、何重にも城は守られているのだが、最初に城門を破られた時点で負けだろう。もっと言えば城下まで敵が押し寄せている状態で、もう負け。もっと言えば領内に侵入されただけでも、もう負けに近い。その境界線や国境での戦いならいいのだが。
 そのため、城内の櫓一つ程度残っているだけでは、何ともならない。あとは階段や梯子から一層、二層と、登ってこられるだけで、それを阻止する天守の守り神がいても、同じようなものだ。
 しかし、天守の最上層にいる城主を倒さないと落城にはならないとなると、この武神が邪魔だ。
 実際には天守近くまで来れば、火を掛けて燃やしてしまえば済んでしまう。武神も殿様もそこで灰になる。
 ところがこの武神、不老不死で死なない。煮ても焼いても倒せない。城が落ちて、また、天守が燃えても、まだそこにいる。
「何処にいるのですか」
「だから、天守閣だよ」
「天守の何処に」
「さあ、天守の何処かでしょ」
「一階とか、二階とか」
「そこまでは分かりませんがね。今は一番上の階にいることになっています。だからそこにお祭りしています」
「まだ、守っているわけですね」
「そうです」
「何を」
「だから、天守閣です」
「建物をですか。それも天守の櫓だけ」
「あ、はい」
「城全体は守備外ですか」
「まあ」
「人は守らないのですか。城主とか」
「そこまでは伝わっていません」
 確かに、この城ができた頃、不思議なことが起こり、天守に登るのを嫌がる侍もいた。音がしたり、声がしたり、妙な影ができていたりとかで、見回り番の侍達は怖がったものだ。それで、これは天守閣を守る神か仏ではないかと言い出したのだ。
 実際には使われている材木だ。太くて長い木がいる。そんな木は滅多に生えていない。何処にでもある大木ではない。
 天守には二本の巨木が使われており、あとは継ぎ足してある。その二本の中の一本がどうも怪しいのだ。つまり木霊の一種だろう。天守の守り神とは、この木霊ではないかという説がある。木は死んでも生きており、呼吸さえしている。だから、たまに音ぐらい立てるだろう。
 さて、その天守閣だが江戸時代に入ると、取り壊される。一藩一城のためだ。しかし石垣は残っており、天守もコンクリートで再建された。もうあの天守柱もないのだが、守り神として、今も最上層に祭られている。
 
   了

 

 


2016年6月29日

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