小説 川崎サイト

 

忘れた夢


「飛行機で飛び立ったのですが、下界を見ると夜景が綺麗なんです。しかし、よく見ると自分の家の前です。道が交差している場所で、少し広い場所です。見通しも良くて、周囲にあまり何もありません。ここを上から見ているのです。だから高度は非常に低い。二階の窓から見ているのと変わらない。隣の席の友人に、ほらこんなに綺麗な夜景と、指差すところだったのですが、すぐに指を引っ込めました」
「夢ですね」
「はい、そうです。なぜ飛行機に乗っているのか分からない。そして、横の友人、懐かしい人でした。夢でしか会えないような」
「はい」
「そして、その飛行機で何処へ行こうとしていたのかは忘れました。乗っているときは目的地があったのですがね。または何等かの目的です。急いでいたのでしょうかねえ。この夢から覚めたときは覚えていたのですよ」
「何をです」
「だから、飛行機に乗った理由を」
「はい」
「そして飛行機に乗る前、何をしていたのかです。これも忘れました。いきなり乗っているところから始まる夢じゃなく、何かの途中から、飛行機になっていたのです」
「夜景に関することですか」
「違います」
「じゃ、その懐かしい友人に関することですか」
「違います」
「違うとどうして思えるのですか」
「そういう夢じゃなかったからです。忘れてしまいましたが思い出せば、すぐに分かります。色々と当てはめているのですが、どれも違います」
「要するに忘れてしまった夢について語っておられるのですね」
「はい、そうです」
「それは何ともならないですよ。僕に聞かれても」
「そうなんですがね」
「それが分かったとしても、夢は夢です。あまり意味はないかと思いますよ」
「しかし、起きたときは覚えていたんですよ。長い目の話でした。印象深いシーンが続きました。そして何等かの懐かしいようなことをやっている最中なのです。それが何をやっていたのかも分かりません。覚えているのは飛行機に乗っていること。下を見たこと。すると自分の町内を二階からでも見える程度の夜景でしかなかったこと。しかし最初は飛行機の上から見ていると思っていたのです。ところがよく見ると、路面やマンホールの蓋や水銀灯の柱まで見えるし、道路脇の草まで見えるではありませんか」
「はい、もう結構です。少なくても」
「え、記憶が少なすぎると」
「少なくとも、しっかりと全体を覚えている夢について話してください」
「いや、ここで話しているうちに思い出すのではないかと、期待していたのですが、無理でした」
「夢は忘れます。そして一生思い出せません」
「そうですねえ」
 
   了

 

 


2016年7月2日

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