小説 川崎サイト

 

鬼の居ぬ間の洗濯


 年寄り達が朝会をやっている喫茶店がある。朝会のための喫茶店ではない。安くて広いため、テーブルはいつも空いているためだ。それで毎朝年寄り達が集まっているが、日曜日は休む。定休日ではなく、そういう取り決めだ。しかし、毎朝日課のように来ているため、この一日の休みが気に入らないらしく、集まりのない日でも来ている。それは一人か二人で、来たとしても話し相手がいないため、やることがないためか仏頂面で座っている。もう一人いればいいのだが、滅多にない。
 その朝会、今朝は話が弾んでいる。ボスがいないためだ。いつもはボスが仕切っており、会話もボスを意識したものになる。今朝はその人がいないので賑やか。
 いつも相槌しかうっていない人が、今朝は喋っている。また聞き役に徹し、首の上下運動だけのた人が、今朝は話を仕切っている。その一席が終わると別の人がまた話し始める。話題により、主人公が違う。そのため全員が口を開き、自分のネタを披露している。この活気、この盛り上がり、いつものボスに見せてやりたいほど。そのボスがいなければ朝会はもっと楽しく、みんなのものになる。
 この朝会のナンバーツウ、ナンバースリーがいる。リーダーの資格は十分だが小男で、貧弱だ。ナンバースリーは穏やかな人で、話がうまい。ただ、ボスがいるときは得意のネタが出せないようで、聞き役に回っている。たまに口を挟んでも、さっと切り放されてしまい、得意技に持ち込めない。しかし今朝はその得意技を披露しているようだ。それが終わると、疲れたのか、バトンタッチし、次の人が主人公になる。うまく話を回しているのだ。あのボスさえいなければ。
 このボスに勝てないのは貫禄の違い。大男のためもあるが、押し出しがいい。体格だけではなく、話し方もそうだ。声も太く大きく、よく通り、睨みもきく。
 他のメンバーは平凡な勤め人だった人ばかりだが、このボスは歓楽街にある総合レジャービルの麻雀屋で支配人をやっていた。悪く例えれば、賭場の胴元のような存在だ。だから、仕切りのプロなのだ。ヨレヨレの平凡な年寄りを仕切るのは何でもない話で、赤子の手をひねるようなものだろう。もっとエゲツナイ連中と渡り合っていたのだから。
 しかし、このボス、面倒見がいい。それはメンバー達に対する心づもりではなく、子分衆に対するそれだ。その子分衆達だけでは決まらないことを、このボスならさっと決めてくれる。かなり強引だが、逆らう人はいない。
 
   了

 


2016年7月3日

小説 川崎サイト