小説 川崎サイト

 

駄犬の夏


 暑い盛り、散歩中の犬が横たわっている。飼い主の青年は困った顔。またかということだろう。老犬ではない。暑くてバテたのか、横になってしまった。当然日差しのあるアスファルトの上でそんな芸当はできない。日陰になっている路上だ。このままだと車が入って来れば邪魔になる。滅多に通らないのだが、そういうときに限って車が来る。
 あれほど散歩に行きたいと吠えてまで催促したくせに、いつもの四分の一ほどの距離で、もう熱だれしたのか寝てしまった。さらに今度は背中をつけてしまう。日陰とはいえ、地面が熱いのだろう。
 青年は足でその腹に触れた。犬は元気よく四つの足でその靴を蹴り払った。飼い主は犬の鼻先に靴を持って行くと、がぶりと噛んだ。じゃれられるほどまだ元気なのだ。
 やがて車が来たので、ぐいっと紐を引っ張るが、犬は動じない。顎を引き、どう張っている。しかし車が来ることを犬も分かったのか、回転しながら脇に移動した。そしては端っこで寝そべった。
 これは何とも格好が悪い。他の犬の散歩人に見られたくない。それに散歩中寝転んでしまうような犬は老犬でも珍しい。へたり込むことはあっても横にならないだろう。それなりに何とか歩こうとするだろう。それに比べ、この犬は駄犬というか、怠け者というか、横着者だ。
 確かに子犬の頃から体力がなく、疲れやすい体質の犬だった。そのため、いつも寝ていた。
 そこに別の犬が来た。よく見かける犬だ。飼い主はお婆さんで、この時間、散歩に出ている。炎天下だ。こんな時間、さすがに犬も飼い主もいやがるのだが、そういう日課なのだろう。
 怠け者の犬は急に立ち上がり、尻尾を細かく振った。こういうときはへっばていてもできるのだろう。お婆さんが連れている犬はちらりと怠け犬を見るが、すぐに無視し、通り過ぎた。
 駄犬はその後を追うとしたので、青年は紐をたぐり寄せたが、ものすごい力で行こうとし、逆に引っ張られた。これなら犬ゾリにもなれるほどの体力があるではないか。こんな力が出せるのだ。
 しかし、ある距離に達すると、もう諦めたのか、また横になった。
 犬は飼い主に似る。
 
   了


 


2016年7月11日

小説 川崎サイト