小説 川崎サイト

 

三度の食事


「朝昼晩と全部ご飯」
「そうです」
「それは用意が大変でしょう」
「そうなんですか」
「ご飯だけじゃないでしょ。おかずがいる」
「あ、はい」
「一日三食分のね」
「はい」
「味噌汁を一日三杯飲むと飽きる。しかも中の具が同じだとね。豆腐を入れたり、ワカメにしたり、ネギだけだったり、麩だけとか、油揚げだけとかでもいいけど、それはどうしてるの」
「あるものを入れてます」
「しかし、飽きませんか」
「いえ」
「それよりもメインのおかずはどうするの」
「はい」
「朝は鮭か、タラコだけでもいいけど、昼はどうするか、夜は肉でも食べますか。肉だけじゃだめなので、野菜もいる。問題は昼です。だから、昼はうどんとかパンとかでいいんじゃないですか。三食とも違うおかずは難しいですぞ」
「はい」
「はいじゃないですよ。それをあなた、毎日作るのですよ」
「いや、三度のご飯を食べられると言うことを果たせたので、そう思っただけです」
「三食ともご飯はやめなさい」
「同じおかずでもいいです。鍋物を作り、それを三回に分けて食べるとか」
「やってみなさい。飽きるから。夜だけ鍋物や煮物でもよろしい」
「鍋物を夜に作って、朝はその残りに卵を入れ、昼はご飯を入れて雑炊にします」
「それもいいけど、味は同じでしょ。それに夏場、そんなもの喉に通りますかねえ」
「はあ」
「それで飽きる。だからコロッケでも買ってきて、それをおかずに一食とかをおすすめします」
「コロッケだけでは栄養バランスが、結局ジャガイモでしょ」
「ビーフコロッケなら肉も入っています」
「欠片でしょ。あれじゃ肉を食べた気になりません」
「じゃ、トンカツでも、ミンチカツでも買って食べればいい」
「はあ」
「うどんかそばかパン、つまり麺類を間に入れるのです。これで残りの二食が生きる」
「でも、パンやうどんでは物足りなくて」
「食欲があるのはなによりですが、それならパンの個数を増やすなり、うどんに餅を入れるなりすれば、腹も大きくなります。面倒なら牛丼屋で牛丼を食べた方がよろしいかと、自分で作るより安かったりしますからねえ。それに楽です。洗い物をしなくてもいいし」
「じゃ、弁当とかも」
「そうです。おかずに困ったとき、また米を洗うのが面倒なとき、弁当を買ってきて食べる。三食とも毎日作り続けられるものじゃありませんよ」
「はあ」
「まあ、そういう決心をされたのなら、仕方ありませんがね」
「食べることに苦労してきましたので、三度の食事を精一杯食べたいのです。白いめしを日に三回。いやおやつの時間におむすびを入れてもいい」
「あなた、どこからで来たのですか」
「はあ」
「今まで食べてきたから、生きておられるのでしょ。なんやかんやと言いながらも食べているはずですよ」
「そうでしたねえ」
「それより、どちらからお越しですか」
「少し遠いところから」
「まあ、それ以上詮索はしませんが」
「はい、よろしくお願いします」
 
   了


 


2016年7月25日

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