小説 川崎サイト



裏技

川崎ゆきお



 いつもの方法が通用しない。吉崎は愕然とした。まさに膝が崩れる思いだ。これでは足が言うことを聞かず、動けない。
 システムが変わった。吉崎は甘く見ていた。こなせると思っていたのだ。
 システムは一新されており、一から理解しなければならない。
 だが、吉崎は今までのシステムも本当は理解して使っていたわけではなかったのだ。
 裏技を使っていた。本来使うべきプログラムとは異なるツールを使っていた。こちらのほうが早く出来るのだ。
 新しいシステムは普通に以前のシステムを使っている者なら、問題なく使えた。変更点をチェックすれば乗り越えられた。
 だが、吉崎は裏技でしかマスターしていなかった。
 深夜までオフィスに残り、新システムと睨み合ったが、対処法は見出せなかった。
 このシステムが使えない人になってしまい、明日から失業だ。会社にいても、役に立たない人間になってしまう。
 終電が近いので、社を出た。朝まで明かりのついている部屋がまだある。新システムをいじっている社員がいるのだろう。その連中より、吉崎のほうが遥かに優れていた。仕事が早いからだ。楽にこなせたのは裏技を発見した成果だ。
 しかし、それが裏目に出て、新システムでは、あの連中以下どころか、素人に戻されてしまう。
 終電に乗った吉崎は、吊り革にぶら下がりながら夜景を見つめた。
 特殊な方法を使い続けたリスクがここで出た。明日から仕事は出来ない。データをシステムに打ち込めないのだ。新システムでは、いつもの裏技が通用しない。エラーが出て、受け付けてくれない。
 裏技で使っているツール類は吉崎が作ったものではないが、それを繋ぐ仕掛けは吉崎が作った。
 乗り換え駅に電車が止まった。
 吉崎は支線のホームへ向かう階段を降りる。
 そしてシステム部から降りる決心をした。
 翌日、一時間遅刻し、魂の抜けたような顔でオフィスに入ると、部長から呼び出しを受けた。
 新しいシステムの作動がおかしいので、旧システムに戻すことを部長が告げた。
 吉崎は命拾いした。
 
   了
 
 
 


          2007年3月20日
 

 

 

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