小説 川崎サイト

 

入らずの路地


 入らずの路地というのがあるわけではないが、立ち入ってはいけない通りがある。これは元商店街の洞窟のようなものではなく、普通の道だが、車は入れない。そのため道路ではない。この道は住宅地の中を貫いているが、古い家が目立つ。昔の村の道だろう。家と家の間の道なので、拡張されず、そのまま残っている。沿道は昔の農家の敷地。
 大きな農家の表玄関、立派な門があり、そこから少し歩かないと母屋の玄関に辿り着けないほど。これは前の道が狭いので、不便なためか、本来は裏側に当たるところに今風な玄関やガレージがある。裏口が表口になっている。
 つまり農家と農家の隙間にあるような道で、村道とは少し違うようだ。これはそこに住んでいる人だけが通る道で、しかも大きな家が多い。農村時代も一般の百姓も近付けなかった一帯かもしれない。
 農家の裏側に面している家もあり、その場合、広い庭の端になり、軽い垣根がある程度。向かい合った家とは縁者なのか、結構オープンだ。親の世代と子の世代が向かい合って住んでいるのかもしれない。
 だからここはプライベートな通りに近いため、入らずの路地と呼ばれているのだが、それは最近になり、とある散歩者が名付けただけのこと。
「何か深い秘密でもありそうでしたか」と、散歩者に散歩者が聞く。
「その狭い路地沿いに、また路地があります。これが臭い」
「入りましたか」
「入らずの路地の中にあるさらなる入らずの路地。これは探検にはもってこいです」
「入られたのですね」
「はい」
「どうでした」
「外からは窺い知れない空間が出てきました」
「ほう」
「空間です。空き地です。いや田圃のようなものでしょうか。その中に社がありました」
「神社ですか」
「個人のものでしょう。家の庭にお稲荷さんを祭っているようなものですが、結構大きいのです。人が入れるほどで、しかもかなり年月を経ているのか、普通の神社より神なびています」
「ほう」
「一寸した水田ほどの広さです。だから結構広いですよ。それがどの表通りにも接することなく、ひっそりとあったのです。まあ高いものはないし、またそれを囲んでいる家が大きいですからねえ、それで隠されていたんですよ。大きい目の農家の敷地の四戸分ほどあります」
「何が祭られていました」
「何も書かれていませんし、中を覗きましたが、何もありません」
「はい」
「それよりも」
「はい」
「その空間が大事なんでしょうねえ」
「裏庭の畑じゃないのですか」
「何も栽培されていません。地の草、おそらくこの地方の昔からの雑草類が生い茂っています。まあ、原っぱですねえ。その真ん中に社です。木も生えていますが、低い目の灌木程度。これも何となく意味が分かります」
「どういう意味ですか」
「大木になる木だと、遠くから分かってしまう」
「はいはい」
「それに村の神社は別にあります」
「じゃ、入らずの路地の中の、さらに細い路地に入り込まないと、そこには辿り着けないのですね」
「そうです。この構造はたまにあります」
「農家の中にある空間ですか」
「馬場です。まあ、昔の農村の中には一種の豪族のようなものもあったのでしょうねえ。その名残かもしれませんが、兵を溜めておく場所かしれません。または練兵場。しかし、そういう実用的なものではなく、一種の祭司用かもしれません」
「はいはい」
「だから、ここは共有地で、土地の持ち主が複数いる。だから、そのまま放置していたのでしょうねえ」
「その神社のようなものは」
「まあ、後付けかもしれません。何もない広場なので、社でも置いてみたのでしょう」
「その村のルーツが隠されているとか」
「いや、後付けだと思います。しかし、ここが本当の鎮守の社かもしれませんがね。小さな鎮台さんですよ」
「はい」
 
   了

 


2016年8月11日

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