小説 川崎サイト

 

駆けつけた豪族


 大きな国が領土拡大を続け、支配地を増やしている最中、まだ未支配地の豪族が動いていた。大国の進軍が近いと知り、味方に駆けつけたのだ。しかし、豪族レベルで、それほどの兵力はない。ただ、その周辺では三大豪族の一つ。ただ、一番小さい。要するに、いつも争っている他の豪族をやっつけるため、大国の威を借りたいのだ。それで三大勢力のトップになる。当然他の豪族は潰す。
 大国にとり、これは悪い話ではないが、その三家とも潰したい。そうすれば家来に領地を分けてやれるし、直轄地にしてもいい。
 この駆けつけた豪族、結局はその大国の家来になるのだが、その三郡は無理でも二群の領主になれる可能性がある。何もしなければ、三郡とも大国のものになる。他の二家二群の豪族は争うつもりなので、当然滅ぼされるだろう。だから同じ滅ぼされるのなら、最初から家来になった方がまし。今よりは高い身分になれることは確かなので、御味方になりましょうと駆けつけた。
 ただ二群では無理だが、三群力を合わせて戦えば、大国もかなり手こずることになる。ここだけに兵を割けないためだ。豪族だけに土地の人間も味方し、雑軍ながら結構な数になるし、他の大国とも繋がりがあり、そこからの援軍も期待できる。
 だから、その駆けつけた豪族、これは一種の賭けだ。
 そしてその賭けが当たる。残る二群の陣営も兵力も、また地形も知り抜いているため、簡単に二群を片付けた。当然駆けつけた豪族が先陣を任され、大国の与力と共に戦った。
 普段からやられっぱなしのこの豪族、それですっきりとした。
 これは今の時代でもあることで、こういう奴は昔からいる。目先が利き、時代を読むのに長けていたが、その性格を逆に読まれてしまう。別に裏切ったわけではないが、狡賢いことを考える男だと。大国もそれを警戒し、他の家来の家来にしてしまった。いつ寝首を掻かれるか、また妙な謀をされるか分かったものではないので家来に与えたのだ。
 その後もこの駆けつけた豪族、かなり活躍し、大きな手柄をいくつも立てたのだが、その中身は謀略。寝返らせたり、欺したりすること。そのためか所領は低いまま。従って、動員できる自分の兵は数百程度。これでは天下を動かせない。
 まだ豪族だった頃、常に戦っていた二群は亡びたが、その家来は生き残っており、大国の家来になった者もいる。その中の一人が運もあるが手柄を立て、かなり出世し、一国を任せられた。
 そして地位も領地も、あの駆けつけた豪族よりも遙かに大きい。
 その豪族の家来、最後の最後まで奮戦し、敵ながらあっぱれと言われた。そのため仕官したと言うより、家来になって欲しいと請われた。しかし三度断り、四度目にやっと承諾した。
 世の中は分からない。
 
   了

 




2016年8月14日

小説 川崎サイト