小説 川崎サイト



怪談幻想

川崎ゆきお



 作田は深夜ファミレスへ行く度に思うことがある。それはイメージの問題で、他愛のないことだ。
 それは入り口でのこと。
 一階が駐車場になっており、作田はいつもそこに自転車を入れる。
 そのとき、声が聞こえる。笑い声や、ざわめきが聞こえる。
 深夜の三時頃でも客はいる。漏れ聞こえても当然だろう。
 しかし作田はそのざわめきに不思議なものを感じる。だからイメージの問題なのだ。
 それを聞いて、何も思わない人間もいる。それほど大きな声ではないし、言葉も聞き取れない。ただ人の気配があるだけ。あって当然だろう。
 上は客席なのだから、漏れ聞こえても不思議はない。
 これが不思議な現象だとすれば、その日、臨時休業で無人の場合だ。
 それならネオンは消してあるだろうし、店内の明かりも見えないだろう。
 若い男が盛り上がったときに出す幼児的な高音。若い女のかん高いはしゃぎ声。
 特に雨の降る深夜など、そのざわめきの発声源を疑ってみる。客はいるのだが、あのざわめきを出せる人数ではないとか……。
 作田はいつもそう思いながら階段を上り、ドアを開ける。当然ながら客はいる。店は閉まっていない。
 しかし、下で聞いたざわめきよりも、店内のほうが音が低い。店内が発声源なのだからボリュームは拡大されているはず。
 それもよく考えると不思議ではない。深夜の駐車場のほうが静かなためで、ちょっとした音でもよく聞き取れるためだ。
 作田は学校の怪談を連想した。深夜の学校から子供達のざわめきが聞こえる。音がどこかに溜まってしまい、あるきっかけで時間を置いて流れだす……。
 いずれも作田の抱くイメージの問題で、勝手な想像だ。
 作田は何年も同じ深夜の時間帯にファミレスに現れる。こちらのほうが怪談になるかもしれない。
 しかし、作田はこの世の人であり、自転車で数分のところに住んでいる。決して幽霊ではない。
 だが店の人で、作田と似たようなイメージを奏でるタイプの人間なら、怪談幻想を紡ぐかもしれない。
 
   了
 
 
 

 

          2007年3月27日
 

 

 

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