小説 川崎サイト

 

影だけの怪物


 ある日、妖怪博士は一番怖い妖怪について聞かれた。それは妖怪なのか、化け物なのか、モンスターなのか、はたまた別のジャンルのものなのかは分からないが、それは影だ。
 これはきっと妖怪博士だけの想像ではなく、似た現象はあるはず。そしてあくまでも想像で、見た人はいないが、見たかもしれないと思う人はいたはず。
 影。本体ではなく、影だけの人。これは人だと分かるのは、人型をしているため。猿かもしれないが、仕草は人間のもの。
 影だけが歩いている。影だけが走っている。影だけが横切る。当然本体はあるのだが、それは見えない。透明人間のようなものだ。だから影の足あたりから本体があるはずなのだが、見えない本体はそれほど気にならないで、見えている影に注意が行く。
 これは捕まえにくい。影は影なので、本体ではない。だから捕まえられないというより、手応えがないだろう。
 そして影の本体もスカスカなので始末が悪い。つまり影も本体もつかみどころがない。
 影は光があるとできる。だから暗闇では影はできない。しかし、その怪物は薄暗い場所でも現れる。しっかりとした影となって。そうなると光源はどうなっているのかだ。これは本体から発している。つまり影の本体は光なのだ。ただ、本体は見えないので、光も見えない。
 ただ、本体が光源だったとしても、それは光が近すぎる。だから影がうまくできる距離に本体がいることになる。だから、透明人間の奥に本体がいるのか、透明人間の奥に空間があり、そこから光が出ており、本体からの光ではないのかもしれない。
 影だけが動く、これだけも不気味だが、さらに怖いのは、その光が出ている箇所だ。これはもう現実の空間ではなく、現実の中に穴でも空いており、その奥から出ている光だ。そのため、光源よりも、その空洞の方が怖い。
 異空間に映写技師でもおり、丁度映画を映してるように、奥にいるのだ。
 だから、この怪物、ただの影だが、その影を映すにはある程度の空間と仕掛けがいる。
 光がなければ影はできない。そしていい角度からの光源でないと、人影などできない。
 影が怖いのではなく、影を映し出す背景の空間の方が怖い。それは現実の空間ではない。
 夜中、枕元の電気スタンドを付けたとき、その傾きと電球の前の障害物で、妙な影が揺れるのを見て、妖怪博士は、そんなことを思ったようだ。
 
   了





2016年10月5日

小説 川崎サイト