小説 川崎サイト

 

動物園作文


 道雄は作文の点数が低いので、気になり、担任に聞いてみた。まだ怖いもの知らずの小学校三年生。しかし、そんな積極的な子供ではなく、成績など気にしないのだが、親から聞いてこいと言われた。親が出るような問題ではないので、道雄が代わりに聞きに行った。道雄が知りたかったわけではない。作文の点数など、どうでもよかった。そのため、今回の作文、動物園へ遠足で行ったときのものだが、ただ単に面白かったと書いている。
 担任教師は何でも教える。だから国語が特に得意な先生ではない。白紙で出した生徒もいたが、その場合は点数は付かない。付ける紙がないためだ。良雄は十八点で、下から三番目。一番下は言葉を間違えすぎたり、使い方が無茶苦茶だった。
「どうして点数が低いのですか」
「ああ、良雄君の場合、ただ単に面白いとだけでしょ」
「はい」
「どう面白かったのかを書かないとね」
「はい」
「動物園へ行きました。面白かったです。では良雄君らしい綴り方にはなっていないのです」
「キリンが面白かったです」
「そうそう、そういう風に具体的に見たものを書くと点数を増やします。でもまだ弱い」
「え」
「キリンの何処が面白かったのですか」
「はい、首が長いので、面白かったです」
「まだ、高い点は上げられません」
「どうしてですか」
「キリンの首が長い。これは誰でも書くことです」
「ああ」
「良雄君が観察した、良雄君独自の視点が欲しいところです」
 小学三年生に対して難しい言い方だ。
「キリンを見ているとき」
「何ですか」
「おしっこがしたくて、それどころでは」
「おしっこ」
「はい、動物園に入ったときは、どうもなかったのですが、キリンのところで、したくなったけど、一人でトイレへ行くのは嫌だし、それにどこにあるのか分からないし、列を乱すし、遠いと戻って来られないし、迷うし。それでキリンどころではなかったのです。これを書けばよかったのですか」
「いや、それは動物園の作文じゃなく、おトイレの作文になります。先生が欲しいのは動物を見て、どう感じたかです」
「キリンの首が長かったです」
「それは先ほど言いましたねえ。ありふれていると」
「はい」
「キリンの首が長くて面白かったです、ではだめですか」
「だめじゃないよ。しかし高い点数は与えられません」
「はい」
「他に何か見ましたか」
「シロクマを見ました」
「それは作文には書いていませんでしたね」
「はい」
「何か、感想は」
「尾も白かったです」
「うまい。千点上げよう」
 良雄はこんなことでいいのかなあと、思った。
 
   了

 

 


2016年10月10日

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