小説 川崎サイト

 

隠されていない神秘


 高橋は白萩の町でポツンと立ち止まってしまった。彼の趣味は怪しいものや神秘的なものの探索。しかし、もうどぶ板をめくっても、何も出てこないほどネタが切れていた。これは探し方に問題があるのかもしれないが、そうなると危険度も増す。また、少し妙なもの、変わったものを見付けても、それはパターン化しており、慣れたものに接しているのと変わらなくなる。
 というようなことを今回の探索地、白萩町で考えた。その結果、ぽつんと立っている。前方斜め右にこんもりとした繁みがあり、神社だろうとは思うが、行っても驚くような物件とは遭遇しないことを、これまでの経験で知っている。ありふれたよくある神様が祭られ、その横にお稲荷さんがある程度だろう。
 それで、立ち止まったのだ。あまり行きたくない。白萩町へ来たのは、町名が気に入ったから。しかし町は平凡な郊外によくあるようなパターンで、これといったものはない。
 しかし、高橋は見落としている。そこは一寸した市街地で、村の氏神さんがあるような場所ではない。ただ、元々は村だった所なら、神社の一つや二つはあるだろう。または村規模ではなく、その土地とは関係のない神社かもしれない。これはたまにある。
 このまま引き返すのはもったいない。電車賃ももったいない。たまにはスカの日もあるのだ。そう思い直し、繁みのある方向へ向かった。
 途中から石灯篭が並んでいることから、そこは参道だろう。結構長いが、まるで廊下のようで、周囲は家々の裏側になっている。ビルの裏側や、マンションの裏側で、あまり神聖さはない。
 鳥居を潜ると紅い花。萩だろうか。ここで一寸高橋は気を持ち直した。地名は白萩町。だから萩が関係している。しかし神社の萩は紅い。白い萩ではない。まあ、萩ぐらい何処にでもあるのだろうから、関係がないかもしれないが、一寸した繋がりだけで、風景も変わるものだ。
 神社は天神さんで、境内横にツルツルの牛がいる。玉垣を見ると、村人らしい氏名ばかり。だからやはり村の天神さんだ。
 パネルはあるが読む前から何が書かれているのかが分かる。緑地地帯に指定されており、木を大切に、などと書かれている。神社の縁起や由来は何もない。
 参道が長いわりには境内は狭く、最近建て替えられたのか、土台がコンクリートだ。
 やはりスカだったのかと、高橋は落胆する。
 しかし流石の高橋も見逃していたのがある。それは古木の裏側がうつろになっており、そこに小さな石仏が祭られていたのだ。社殿の裏側のため、分かりにくい。それに木がある程度にしか見えなかったのだろう。
 白萩ではないが、白面明神と書かれている。何かの信仰だろうか。高橋が探している怪しいものにどんぴしゃりなのだが、それを知らないまま、立ち去った。
 テンションが下がると、見つかるものでも見つからない。
 
   了

 


2016年10月12日

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