小説 川崎サイト

 

遠い話


 少し昔の話は、もう今とはかけ離れており、別世界のようなものだ。そのため、今との繋がりは殆どない。遠いところでは繋がっているのだが、もう現実的ではない。因果関係もある程度幅があり、その原因を遡れば、どんどん薄くなったりする。縁が切れたわけではないが、たとえば鎌倉幕府の影響が、今何処に出ているのかなどと考えると、もう物語り世界のように、遠いものとなってしまう。平安時代のある貴族が何かをしたとかもそうだろうし、近いところでは徳川時代に行った改革なども、その影響が今も残っているなどとは考えにくい。これも間接的に繋がっているのだろうが、今生きている人達にとっては無関係に近い。その影響がまだ色濃く残っていれば別だが。
 しかし、人がこの土地に住みだしてから、毎日それを見続けている人がいたとすれば、その繋がりがよく分かるかもしれない。だが、数千年も生きている人でも、場所が限られているだろう。
 要するに過去の遠い話は、もう話だけになっており、直接関係しにくいからいいのかもしれない。あのとき、あれがあったので歴史が変わった、などは希なことだろう。そのあれがなかったとしても、変わっていたかもしれないし。
 また、ある人物が活躍したので、世の中が変わり、時代も変わったという場合でも、そのある人物でなくても、他の人がやっていたかもしれない。
「歴史についての話ですか」
「そうです。しかし古い時代の話になりますと、もうお伽噺を聞く思いです」
「実際にあったことでもですか」
「遠いと、もう昔話を聞く思いです」
「たとえば」
「悪い奴がいて、それをやっつける。それでハッピーエンドで終わり、メデタシメデタシ」
「はい」
「しかし、すぐにまた悪い奴が出てきて、悪いことをする。その前に退治したので、平和になっているはずなのに、長くは続かない。そしてまた、それを退治して、世の中が鎮まる。これで終わればいいのですが、また同じことが起こる」
「でもある時期は無事に収まったのでしょ。平和な世の中になったのでしょ」
「しかし、歴史に終わりはありません。世の中が消えない限りね」
「歴史は繰り返されると言うことですか」
「それはもう常識でしょう。だからそうじゃなく、時代が古いほど別世界のように感じ、異次元で遊ぶような、物語世界を楽しむような感じになるのです」
「はあ、少しそのニュアンスが分かりませんが」
「今とは関係しているが、直接の脅威はない。そして遠い関係なので、もう原因とは言えない。だから絵空事の話に接するのと同じようなものになります。だから、気楽でいい」
「でも、もしあのときの戦いと言いますか、先祖の人がそこで怪我をしたため、めぐり巡って私は産まれなかったということもあるでしょ」
「生まれていなかったとしたら、考える本体がないので、それは無視です」
「はい」
「要するに古すぎる話はもう現実離れした次元になりますので、今の話よりも楽しめると言うことですよ」
「何となく分かりますが、それは娯楽の問題ですね」
「まあ、そうだね」
 
   了

 


2016年11月16日

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